僅かに動く
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幸村君連絡がくるかも、と宣言されてから3日が経った。
雅といる時に着信が鳴ったら即アウト。いくら不可抗力だとはいえ私に被害があるんだからと警戒心を払っていたけど、私の携帯が鳴ることはなかった。
(…まあ、あの子にそんな強い神経はなかったってことか)
第一、雅からの危険を乗り越えてまで近付く価値なんて私にないしね。
そう思いながら気を抜いて、幸村君のことを忘れかけた頃だった。
「っ、真崎、さん…っ!?」
「…幸村君?」
ちょっと遠出でもして買い物でもしようと気まぐれを起こしたのがまずかったのかな。
「…なんで東京に?」
まさかこんなところで会うなんて思わないじゃない?
第一、今日雅は部活だって言ってたと思うんだけど。
「あ、えっと、合宿の打ち合わせ…で」
「ああ、幸村君だけなの?」
「俺、部長だから…」
「そうなんだ?すごいね」
素直に褒めると、幸村君は顔を真っ赤にして勢いよく首を横に振った。
(…可愛いなあ)
なんでこんな子が雅に喧嘩売っちゃうかなあ、と思いながら話を続ける。
「駅にいるってことは、もう帰るの?」
「う、うん。あ、真崎さんは…?」
「私も帰るよ。買い物しすぎちゃった」
ほら、と笑いながら大量の紙袋を掲げてみせると幸村君は緊張を含みながらも綺麗に笑った。
…うん、ほんと綺麗な子。
(…って、あれ?)
何気なく会話したけど、これはもしかして一緒の電車で帰る感じかな…?
方向が一緒なのに別々っていうのも変だよね。
改札を通ろうとして幸村君も気付いたらしく、見て分かるほどに焦っていた。
「…幸村君」
「っは、はいっ」
「雅には内緒ね」
慌てる幸村君がおかしくてついつい笑ってしまう。
人差し指を口元に当てて微笑むと、幸村君はまた真っ赤になって勢いよく頷いた。
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