理解できない  [ 16/17 ]



「…まだ怒ってる?」
「もうええよ。もう他の男見らんでくれたら」


顔色を伺うように雅を見つめると、本当に気にしていないように優しく笑った。


(久々に見たなあ、雅のその顔…)


「ああ、そうじゃ」
「ん?」
「幸村に透の連絡先教えた、じゃからそのうち連絡来るかものう」
「は……?」


あまりにも軽く発されたその言葉は私を呆然とさせるには充分だった。


「…何。今度は何を考えてんの」
「なんじゃ、随分疑われとるの」
「今日幸村君と話して終わったんじゃないの?スッキリしたんじゃないわけ?」
「別に、あいつがおまんを助けたいとか言い出したからの、“オトモダチ”にでもなればええと思っただけじゃ」


助けたい?オトモダチ?……だめだ。こいつの真意がわからない。


「…それは、他の男と連絡をとっていいと雅から許可がでたと思っていいの?」
「なんじゃ、連絡とりたいんか?」
「は、あ…?」
「俺は、今まで通り、じゃよ」


今まで通り、という言葉を認識して溜め息をつく。


「…そう」
「おん」


それは、幸村君と連絡をとって様子を感じとられたら終わりだということ。

じゃあ何を思って雅が私の連絡先を教えたりしたのかは全くわからないけれども。


「…幸村君は、何を考えてるの」
「何が言いたいんじゃ?」
「あんな弱々しい子が、雅に脅されて立ち向かうなんて」
「脅されたとは随分な言い草じゃの」
「実際そうでしょ」


幸村君の髪、乱れてたし。
そんなことを言えば、他の男の変化なんて見るなと言われるのが目に見えているから口には出さないけど。


「…何をどうしたって、私が雅から離れるなんてできないのに」
「…それは喜ぶべき言葉なんか?それとも嫌々からの言葉なんか?」
「そんなの、雅が一番わかってるくせに」


雅に視線を流すと、雅は喉を鳴らして笑った後私の髪に手を伸ばした。


「どういう意味にしろ、離しちゃらんよ。いつまでも、俺の傍におるんじゃろ?」


雅の白く細い指に絡められた私の髪は、スルスルと雅の指を伝っていった。


「…お前さんは髪さえも俺から逃げたいんじゃな」
「誰も逃げたいなんて言ってないでしょ」
「俺から逃げる透なんて許さんよ。…それが例え、髪一本でも」


雅は狂ってる。

でも、そんな雅から逃げようとしない私だってきっと、狂ってる。


「透、」


雅から呼ばれる名前に何一つ、愛しいなんて思わないのに。