メモ

色々なものが置いてあります


::櫂アイで六兆年パロ そのよん

男たちが帰る。もう夕暮れだ。
いつもと同じ。おしおきで始まった今日は、おしおきが終わって終了する。
明日もまたおしおきで始まり、おしおきで終わるのだろう。
変わりなんて、ない。何も思い出してはいけない。
夕暮れだからって昨日の二人のことなんか思い出してはいけない。
だから、早く目を閉じよう。耳もふさごう。何も何も何も、知ってしまわぬように。

「――!――っ、―――!!」

声が聞こえた。
村人たちのおしおきが夜もある日なんてあったか?だが違う。これは扉の向こうから聞こえて声じゃない。
……外、からか?

「……っ、ごめんなさい、ごめんなさい、お父さん、許して」

ふるえる声。男のものじゃない。女?子供?どちらか分からない。

「――うるさい!!」

今度は男の声とともに、聞きなれた鈍い音がした。
殴られたら音。こぶしで頭を強く殴られたらときの音だ。

「……っ、ぁ――」

草むらに何かが落ちた音が響いた。……倒れた、のか。
吐き捨てる声が続く。

「お前がいるから俺はこんな風な目に遭うんだ。お前がいるから俺はどこにも住めないんだ。お前がいるから俺はろくに稼げないんだ。お前がいるから俺は新しい女もできないんだ。お前がいるから」

何度も鳴る、平手で張り飛ばす音。怒声も俺がよく浴びさらされるものとよく似ている。

「ごめんなさい、お父さんごめんなさい、僕のせいでごめんなさい……っ」

謝る女だか子供だかの声。
なぜか聞き覚えのある言葉のような気がする。そうか、俺がいつも心の中で思っているのと同――

「――黙れ、お前なんて【忌み子】だ!!」

……?

「お父さん、やめて、許して。もうぶたないで」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!!お前がいるからいけないんだ、お前がいるから何もかも!」

男が叫ぶ。殴る。

「知ってるか?この村じゃ、この辺に来たやつは殺されんだ」

……知ってる。俺に近づいた人は殺されるからだ。


(だからあの“おかあさん”は子供に悲鳴をあげた)

(あの“おかあさん”は子供を“心配”したから)

(……“心配”って)


草むらが揺れる。

「……お父さん……」

ふるえる声が響いた。

「丁度良いじゃないか。分かるだろ?―――お前、殺されてくれよ」

……殺されてくれ?そんな話、はじめて聞いた。殺されるために、あえて俺の近くに来たのだろうか?……殺してもらうために?

ゆっくりと目を開ける。薄く開けた目に二人の姿が映る。
男が、俺より少し小さい何かをひきずっているのが見えた。俺と違って少し長い髪を持つ、あれは……女の、子供?
まったく、と、男が唾を吐く。

「早く死ねば良いのに」

それは、その言葉は。そう言われるのは。
男が女の子供(?)を草むらに投げ捨てて去っていく。
痛そうだ。そう。“痛そう”。
痛みなんて俺は知らないのに。知っていてはいけないのに。
なのに思った。痛そうだと、思った。
……どうして?
 

2013.12.29 (Sun) 12:43

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