”鬼” (32ページ)
元治元年七月
「会津藩から正式な出動命令が下った。ただ今より我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」
それと同調するように、おお!と歓喜の声が上がる。
「はしゃいでいる暇はねぇんだ。てめぇらも、とっとと準備しやがれ」
土方はいつも通りの渋い表情で悪態を吐く。どうやら長州兵の布陣は完了しており、状況は芳しくないらしい。
「よかったぁ。池田屋でもっとひどい怪我してたらでられねぇところだったぜ」
「良かったな、平助」
何も知らない平助たちは素直に喜んだ。
「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣することになったら一緒に参加したいとか言ってたよな?」
新八が不意に、思い出したように口を開いた。千鶴は池田屋での功績が認められ、巡察に一人でついて行くことを許可されていた。だからこれは名前の知らない話である。
『そうなの?千鶴』
「でも、あの・・・」
下手なことを言って皆を困らせたくないからと、千鶴は否定の言葉を捜した。だが―――
「おお、そうだな。こんな機会は二度とないかもしれん」
「ええっ!?」
なぜか近藤はあっさりと賛成した。
「千鶴が行くってことは名前も行くのか?」
『もちろん、千鶴が行くなら、俺も行きます』
平助と名前の会話を聞いた土方はあきれた様な溜め息を吐いた。
「今度も無事でいる保障はねぇんだぞ。お前たちは屯所で大人しくしてろ」
「いや、人手が足りんからな。前みたいに伝令を頼むことになると思う。それでもよければついて来てくれ」
皆の役に立ちたいと思った千鶴は少し迷ったが、近藤をしっかり見据えながら答えた。
「・・・はい、参加させてもらいます」
『なら俺も参加させてもらいます』
こうして千鶴と名前の参加が決まった。