君が故  (138ページ)

風間の襲撃があった日の次の日、名前は千鶴に謝っていた。



『千鶴、ごめん。迷惑かけたよね』

「そんなことないよ」



千鶴は安堵していた。名前に記憶が戻ったことを。



『あ、でも、気をつけて。労咳は治ってないから』

「・・・そっか」



記憶があろうと無かろうと、あまり千鶴を近づける気はもうとう無かった。万が一があれば困るからだ。

そしてその日の夕方頃に事件が起こった。二条城から戻る途中、突然近藤が狙撃されたのだ。新選組の屯所にその伝令が届いたのは月が完全に昇ってからだった。そしてその知らせを沖田は知ってしまった。彼は一人、敵討ちに行った。



「近藤さんを撃ったのは君?」



挑発により発砲した浪士を斬った沖田はその近くにいた薫に問う。



「嫌だな、俺だって悪気があったわけじゃないけど」



そんな嘘を簡単に見破った沖田は薫に斬りかかる。カンッキンキンといい音を鳴らし合う。だが技術的に上回る沖田が優勢だ。薫には風間ほどの力はない。



「君の目的は何?」

「南雲家に引き取られてから俺の扱いはどうだったと思う?女鬼じゃないってだけで虐げられて・・・!なのに千鶴はっ」



自分達をこんな風に追いやった人間に屈し、守ってもらっている。憎らしかったのだ。自分は誰も守ってくれなかったのに、妹だけは。どうして千鶴だけ。どうして。



「大事なものを守れず、守られず、己の存在理由さえ分からない。そんな苦しみを可愛い妹にも味わらせてやりたいんだよ」

「悲しいね君」

「うるさい」



薫が一太刀浴びせようとしてきたものを沖田は簡単に避け、ヒュッヒュッヒュッと得意の三段突きを浴びせる。攻撃から逃れるため屋根へと上がった薫に良く似た顔の女子が走ってくるのが見えた。



「沖田さーん」

「総司ー」



沖田を心配して追いかけてきていた千鶴と平助であった。本来なら一番に駆けてきそうな名前は体調を崩しており寝込んでしまっていたのだ。夜であり、活動時間である為にたまたま平助と千鶴が一緒にいたのだろう。



「沖田」



二人の方へ顔を向けていた沖田は薫の方へと向け、薫の視線の先へと移動させた。



「危ないっ」



その先には何と二人に銃を構える浪士が三人いたのだ。沖田が危険を呼びかけるが、間に合わず・・・パンパン―――沖田は銃の前に立ち二人を守った。だがその衝撃で沖田は倒れてしまった。



「総司!!」

「沖田さん!」



急いで駆け寄る二人を、顔のよく似た妹を見ながら薫は満足そうに呟いた。



「間抜けだな。でも沖田なら庇うと思ったよ」



歪な笑みを浮かべながら月へと薫は消えていった。



「・・・総司、お前まで羅刹になっていたんだな」



茶色かった髪が今は真っ白に染まっている。平助は総司を抱えながら、寂しそうに悲しそうに呟いた。


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