池田屋事件 (10ページ)
数日後。相変わらず名前と千鶴は軟禁状態にあった。
「お待たせ、ご飯の時間だよ」
『わざわざありがとうございます』
と、言ったのだけど膳がない。どうしてだろう?と首を軽く傾げていると。
「千鶴ちゃんが皆と一緒に食べることになったんだ。だから、君もね?」
『ありがとうございます』
千鶴と一緒に食べることができることは単純にうれしかった。そして名前自信が気付かぬうちに口角が上がっていたのだった。
「君・・・」
『何ですか?』
「うーん?笑うと女の子みたいだなぁって」
『・・・からかわないで、ください』
名前は下を向きながら言うが、それが総司にとってそれが面白く、珍しかったらしい。
「あはは♪ほら、早く行くよ」
『ちょっ、引っ張らないでください!』
名前は腕を引っ張られながら広間へ向かった。
「おせーよ。お前ら俺のこの腹の高鳴りをどうしてくれんだよ」
「・・・ん?何でソイツらもいるんだよ」
「俺は許可した覚えはねぇぞ」
「土方さんも固いなー、皆で食べた方がうまいじゃん」
「千鶴ちゃんが皆と食べるって言うから、名前君も連れてきただけだよ」
「・・・ったく」
土方は頭を抱えた。確かにかわいそうなものはかわいそうだが。せめて俺に一言言ってからしろ、と言っても聞く連中ではないことを知っているからだ。
『大丈夫?千鶴』
「うん。名前は?大丈夫」
『大丈夫だよ』
特に何もない。部屋に閉じ込められて、監視されているだけ。天井から見られている気配と沖田さんの気配で、落ち着かないのだけれど。
「ありがとうございます藤堂さん。皆と一緒にご飯を食べてもいいと言ってくれて」
「あぁ。あのさ、藤堂さんってやめない?平助でいいよ。年も近いし。俺も千鶴って呼ぶからさ」
「じゃあ、ありがとう平助くん」
「それでいいよ千鶴。名前もだからな?」
『え、で、でも・・・』
戸惑う名前をせかすようにもう一度平助は名前を呼ぶ。
「ほら、名前!」
『・・・平助、君』
「男に君付けで呼ばれるのは慣れてねーけど・・・ま、いいか!」
原田と永倉は間を開け、二人をそこへ座らせる。
『失礼します』
自分の膳を置くと、永倉さんが覗き込んでくる。
「名前、少なくねぇか?」
『俺には多いくらいです』
「もっと食わねぇと大きくならねーぞ」
『俺はこの大きさで満足してます』
名前の膳は明らかに皆より少なかった。千鶴でさえもご飯は山盛りなのに、名前は茶碗が良く見えていた。
「うるせーぞっ、お前ら!!」
土方の一言で広間は静かになり、食事が始まった。