力の代償  (97ページ)

慶応三年十一月、新選組は屯所を西本願寺から移動した。この前の騒ぎに西本願寺にいた和尚たちが怒ったのだ。元々新選組をよく思ってはいなかった為、これを期に体よく追い出したのだ。これ以上、ここで騒がれては困ると。



『どうしよう、かな』



あの時、結界は破れた。また、新選組が屯所を移動した為に現在結界はない状態なのだ。このままでは鬼たちに千鶴を攫われてしまうかもしれない。すぐに行ける距離に俺がいるとは限らないから。



『潜入するしかない、か・・・』



屯所内に入らないとあの結界は張ることができない。だが今は鬼たちに襲われたときの傷のせいで力が少なく、前よりもはるかに弱い結界しか無理だ。でも・・・



『沖田さんの様子も気になるし』



咳をしていたのをはっきりと見てしまった。労咳が再発したというのなら早く治さないと手遅れになる。ただの風邪なら問題ないのだけど。

新選組の隊士が出陣でいない時を狙って名前は屯所に潜入した。



『ふぅ』



隊士が少ないとはいえ、残っている隊士もいる。気配を悟られないよう存分に注意しながらも力を込めて結界を張っていく。後少しで終わるというときに背後から声がした。



「何してるの?」



棘棘しく放たれたその言葉は俺が御陵衛士だからなのだろう。



『・・・沖田さん』

「ねぇ、何しに来たの?」

『何か俺たちにとっていい情報はないか探しに来ましたって言ったらどうします?』

「だったら土方さんの部屋がいいよって教えるかな。こんな外にあるわけないじゃない。本当は何しにきたの?」

『・・・千姫から伝えられたと思いますが結界を張りにきました。今度は俺がやられても守れるような結界を』

「ふーん。随分舐められたものだよね。新選組がたかが女の子の結界で守られてるなんてさ」

『沖田さんはお気づきだと思います。人では鬼に勝てないと。・・・では失礼します』

「待って」



余計なことは話せない。沖田の小姓だった頃とは違うのだ。・・・彼の咳はただの風邪だったのだろうか。これだけ話しても一向に咳き込む様子はない。俺から漏れる鬼の力で抑え込んでいるのかもしれないが。とりあえず後日咳き込む様子があれば要確認、と。結界も張り終え、帰ろうとした彼女は引き止められる。



「どうして名前ちゃんは御陵衛士に行ったの?千鶴ちゃんは新選組にいるっていうのに」



幹部達、そして千鶴の最大の疑問であったものを沖田は問う。名前はしばらく悩んだそぶりを見せた後、答えた。



『・・・千鶴を守るためです』



どういうこと?と沖田が問う前に名前は消え去ってしまった。



「名前ちゃん!!」




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