”鬼” (35ページ)
動き出した新選組だが戦地についたときにはもう戦は終わっていた。そんな状況を土方は的確に判断し、それぞれに役目を与える。原田、藤堂には公家御門にいる残りの残党の排除。斎藤、山崎には蛤御門の守備。近藤、井上には敗残兵を追討する許可をもらうこと。残りの沖田、永倉は土方と友に天王山へ。名前と千鶴も天王山に向かうことになった。
『千鶴大丈夫?』
「うん」
結構な速さで走っているから、遅れがちになっている千鶴に名前は声をかけた。同じ女のはずなのに名前は涼しい顔して走っている。どうしてここまでの差があるのだろうと思いながら千鶴は急いで走りに集中した。
天王山が見え、もうすぐ山のふもとに着くという時に人影が現れる。
「貴様は何者だっ!?そこをどけ!斬リ捨てるぞ!!」
「待て!」
土方が止める間もなかった。そいつは人影に向かって斬りかかった。
ザシュッ
「ぐあっ」
そして斬りかかった隊士は返り討ちに合ってしまう。
「おいっ、大丈夫か?」
「私が」
隊士に駆け寄ろうとする新八よりも早く千鶴が動いた。
「その羽織は新選組だな」
「土方さん、あの日池田屋にいたやつです」
沖田が土方に耳打ちする。あの日、池田屋にいた―――風間千景と名乗った奴。
「田舎侍にはまだ餌が足りんとみえる。いや貴様らは侍などではなかったな。腕だけは確かな浪人集団だと聞いたが・・・そこにいる沖田という男を見る限り、そうでもないらしい」
その瞬間、沖田からおびただしいほどの殺気が風間に向けられる。風間はそんなことは関係ないとでも言うように凛と立っているまま。
「総司の悪口ならいくらでも言えよ。でもな、その前にこいつを斬った理由を言え。納得できなかったら俺がお前をぶっ殺す」
次に口をあけたのは永倉だった。
「ふん、敗北を知り戦場を去った連中を何のために追い立てようというのだ。腹を切る場所を求め天王山へ向かった長州侍の心をなぜに理解せんのだ」
「じゃあ誰かの誇りのために誰かの命を奪ってもいいんですか?誰かに守ってもらうだけの誇りなんてそれこそずたずたになってしまうと思います」
「ならば新選組が手柄を立てるためならば他人の誇りをよごしてもよいといのか」
千鶴が反論するが、反論に反論され、押し黙ってしまう。そんな千鶴を見ながら土方は口を開く。
「身勝手な理由で喧嘩をぶっ掛けておいて、甘ったれてんじゃねぇぞ!罪人には打ち首で十分だ」
風間に土方が刀を向けると、他の隊士たちも加勢しようと刀を向ける。
「てめぇら自分の仕事もわすれてんのか!?」
土方は叫んで、沖田や永倉を止める。
「土方さん。この部隊の指揮権、今だけ借りておきますね」
頭が冷めたのか、沖田はそう言い、走り出した。
「貴様ら・・・」
「おっと、余所見してんじゃねーよ。真剣勝負っていう意味もしらねーのか」
沖田たちを追いかけようとした風間に土方は斬りかかる。
カンッ、キン、キンッ
刀がぶつかり合う音が響く。単純に腕だけなら土方のほうが上なのだが、力が風間にはある。そのように名前の目には映っていた。
『様子どう?ここにいたら邪魔になるだろうから、俺たちも天王山に向かうよ』
「うん。分かった・・・って名前、運べるの?」
『これくらいならどうってことないよ。悪いけど、後ろから支えてくれる?』
斬られた隊士を背中に名前は背負い、千鶴に後ろから支えるよう頼む。
「これでいい?」
『うん・・・・・・・・・千鶴っ!!』
なんと風間が千鶴のほうへ刀を飛ばしたのだ。千鶴を庇いに名前は動いたが、後ろに隊士を背負っているせいか、間に合わなかった。
「っ…」
刀は千鶴の腕をかすり、血が流れ落ちる。
『大丈夫!?』
「う、うん・・・」
傷はすぐに癒えていった。