”鬼” (33ページ)
潔く辿り着いた伏見奉行所には、長州との戦いに備えて京都所司代の人が集まっていた。局長が門のそばに立っている役人に近づき、用件を告げる。
「会津藩中将松平容保様お預かり、新選組。京都守護職の命により馳せ参じ申した!」
だが・・・
「要請だと?そのような通達は届いておらん」
役人たちは眉を寄せるのみ。
「しかし、我らには正式な書状もある!上に取り次いで頂ければ―――」
「取り次ごうと回答は同じだ。さぁ、帰れ!壬生狼ごときに用はないわ!!」
なおも取り縋る近藤に役人がぴしゃりと言い放つ。その瞬間、沖田からものすごい殺気がかもし出された。それに気付いた幹部たちは冷や汗を流すが下っ端の役人が気付くはずもない。
「局長、所司代では話になりません。奉行所を離れ、会津藩に合流しましょう」
ここにいても無駄だと判断した斎藤が近藤に進言する。
「うむ・・・それしかないな。守護職が設営している軍を探そう」
新選組は指示を仰ぐために会津藩邸へと向かうことに。そこで九条河原へ向かうよう指示され、その場所へ付いたのはもう日の暮れかけた時刻だった。だが、辿り着いた新選組に待ち受けていたのは相変わらずの厳しい現実だった。
「どうやらここの会津藩士兵たちは、主戦力じゃなく唯の予備兵らしい。主だった兵は蛤御門のほうを守っているらしい」
「我々も予備兵扱いってことですか・・・」
予備を使う必要さえなければ、新選組に出番はない。
「屯所に来た伝令じゃ、一刻を争う自体だったんじゃねぇのか?」
「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちにできることはそれだけだ」
苛立ちを隠せない新八の態度に、斎藤が咎めるように口をはさむ。
「今は、待つしかないんですね・・・」
ぽつりと千鶴から言葉が漏れた。