池田屋事件 (31ページ)
池田屋で鬼と戦い、気絶した二人だが名前に助けられたことにより、すぐに動けるようになっていた。
「名前ちゃーん?」
「どうしたんですか?沖田さん」
廊下で沖田と鉢合せした千鶴は驚いた。沖田が普段では聞かないような大きな声で名前のことを呼ぶのだ。
「千鶴ちゃん。名前ちゃん知らない?」
「見てませんね・・・私も一緒に探しましょうか?」
「いや、別にいいんだけど・・・」
せっかく巡察の帰りにおいしいって評判の団子を買ってきたんだけどな・・・千鶴ちゃんには悪いけど二人で食べたいからほうって置いてほしい。
「多分、暗くて狭いところか、木の上や屋根の上など 見えづらいところで寝ているんだと思います」
「ふーん、そう。ありがと」
「では、土方さんから頼まれた仕事があるので失礼します」
あまり一緒にいてほしくないというのを察したのか、本当に土方さんに呼ばれているのかは知らないけれどとりあえず一人になった。沖田は千鶴の言ったような場所を注意深く探し、しばらく経った後、木の上のほうにいる名前を見つけた。
「・・・ほんとにいた。名前ちゃーん」
木の下へ行き、名前を呼ぶが、返事がない。千鶴の言うとおり寝ているのだろう。
うーん、どうしようかな・・・僕が言ったら枝が折れちゃうだろうし・・・・・・
「仕方ないよね」
自分で勝手に自己解決し、木を揺さぶる。
『!!??』
「あ、名前ちゃん、起きた?」
身の危険を感じたのか肩をびくっと振るわせて状況確認のためにきょろきょろと頭を動かす。
『はいっ、揺らすの止めてもらえませんか?落ちてしまいます』
「大丈夫だよー、僕が受け止めてあげるから」
『そんなこと言われてもっ・・・』
細い枝にいた名前はついに体勢を崩し、落ちていく。
『っ!!』
最低限の受身を取るが、沖田によって地面へ着地するのは防がれた。
『あ、ありがとうございます』
「うん。君ってやっぱり軽いよね」
『普通だと思います』
「いやいや、軽すぎるって」
沖田は所謂お姫様だっこをし、名前を抱えたまま庭を走り回る。
『ちょっ、おろしてくださいっ』
「えー?」
笑顔で答える沖田を見、名前は満足するまでおろしてもらえないことを危惧し、自ら暴れて、地面へと着地した。
「ちぇ、おもしろかったのになぁ」
『俺はぜんぜん楽しくなんてありません』
あはははは、だろうね。だけど僕は僕が楽しければそれでいいんだ。
「ほら、そんなに拗ねないの。お団子買ってきたから一緒に食べよう?」
『分かりました。では、お茶を淹れてきますね』
勝手場へ消えていく名前を沖田はじっと見つめていた。