池田屋事件 (30ページ)
「失礼します。お薬をお持ちしました」
千鶴が広間へと薬を持ってきた。
「私も飲むんですか?」
山南は自分にも薬を出されて不思議に思った。今回は少なくとも怪我をしていないのに。
「土方さんが山南さんにもって」
「山南さんあきらめましょ」
「そうですね」
山南は土方の様子を見て、諦め、薬を飲むことにした。
「そのお薬って特別な処方をしてもらったものなんですか?」
ふと千鶴は疑問をぶつける。
「特別っちゃ特別だな」
「土方さんの実家の薬なんだよ」
「へぇ、そうんですね」
「それにしても沖田君や藤堂君を気絶させる者がいたとはねぇ」
おもむろに井上は口を開いた。
「次は僕らが勝ちますから」
あのとき自分は血を吐くほどの怪我をしたはずだ。なのに、山崎の診断結果は・・・かすり傷。とのことだった。沖田は何かがおかしいと思いながら、答えた。
「そいつらは長州じゃないって言ったんだよな?」
「なんらかの目的で来ていた他藩の密偵かもしれん」
「名前は?あいつらと対峙したんだろ?どう思った?」
土方は他の人の意見もほしいと思い、対峙したことのある人からいろいろ聞けないかと探る。
『・・・人間の技量をはるかに超えていると思いました』
「そうか」
名前は鬼なんて単語を言うことが当然できず、わざと誤魔化しながら答えを言うのだった。