池田屋事件 (29ページ)
「で?どういうこと?」
口周りと手をきれいにしたら、すぐに千鶴の言及が始まった。隠せるわけもなく、諦めた声色で名前は言う。
『沖田さんと平助君の傷を治したでしょ?それは治したんじゃなくて俺に移しただけだったんだ』
「あんな傷をっ・・・?」
『うん。だけど、俺は傷の治りが早い。だからもう治った』
下を向いた千鶴と目線を合わせるように少しかがみ、安心させるような口調で言う。
『大丈夫だよ。俺はこれくらいの傷じゃ死なない』
「でもっ・・・」
『大丈夫、千鶴も知ってるでしょ?俺の傷は治りが早いこと』
「うん・・・」
とは言っても痛みはくるはず。そんなのに一人でたえるなんて。
「名前っ・・・」
気がつくと私は名前を抱きしめてた。
「つらいときは私に言ってくれていいんだからね?一人で抱え込まないで・・・」
『うん。ありがとう千鶴』
本当に分かってるんだか、どうなんだか。
『千鶴、一つお願いがあるの。このことは黙ってて』
「でも・・・」
『お願い』
珍しく私に頼む名前。そして強気なのも珍しく私は頷いてしまった。
「・・・分かった」
『ありがとう』
珍しく名前が微笑んだから、私もつられて笑ってしまった。