池田屋事件 (27ページ)
必死に名前は沖田に声をかけるが、沖田は意識を失ったままだ。
「沖田さん!?」
『千鶴!?』
沖田に呼びかけていると千鶴がやってきた。
『何でこんなところに』
「ご、ごめんなさいっ、心配で・・・」
頭をばっと下げた千鶴に頭を上げさせる。今はそれどころではないのだ。
『いや、無事ならいい。俺の後ろから出ないようにしといてくれれば。ところで沖田さんは、』
医療のことは千鶴の方が詳しい。多少の知識があろうとも医者の娘ほどではない。だから確認を取りたかった。もしかしたら見た目ほどではないのかもという期待を込めながら。
「・・・このままじゃまずいと思う」
だが千鶴の口から告げられた事実は望んでいたものとは違った。このままでは沖田さんが死んでしまう。助けるためには、あれしかないのであろう。
『仕方ない、か・・・千鶴、今からすることは新選組の皆には秘密ね?』
「何するの?」
『沖田さんの怪我を治す。完治とまではいかないだろうけど』
こんなことを考えるなんて。この人が私の心を絆しはじめている・・・ってことかな。一息ついて、名前は鬼の姿になった。長い髪が白色に、目の色が黄色に、そして角が二本、頭から生えている。
「・・・え」
千鶴は名前の変化に戸惑った。だがそれだけではなかった。自分の中に流れる力が放出される気がしたのだ。何故だかはわからない。ただ自分の力が出ている。鬼化した名前は沖田の傷口に口付けた。口付けたところから傷が治っていく。
『・・・フゥ』
一通り深そうな傷は治った。これで沖田は大丈夫だろう。顔を上げると、襖を倒して倒れている平助の姿が目に入る。
『平助君も・・・治してあげるね』
名前は平助の額から流れる血を舐めとり、そっと口付けていく。しばらくすると、いつもの姿へと戻っていった。そして呆然と立つ千鶴に声をかける。
『・・・・・・・千鶴、大丈夫?おーい?』
「だ、大丈夫!これで沖田さんと平助君は大丈夫なんだよね?」
『うん。これで大丈夫だと思う』
千鶴が鬼だということを名前は悟っている。だが彼女には告げていない。千鶴自身が気付いていないことを把握しているからだ。
また、風間と名乗った男も鬼だということも。何となく。何となくだが勘付いたのだ。鬼化したときに。
「名前、千鶴、大丈夫か?」
斎藤が二階へと上がってきた。二階にはもう千鶴と名前、倒れている沖田と平助しかいない。
『俺たちは大丈夫です。ですが、沖田さんと平助君が気を失っています』
「そうか。では新八たちを呼んでくる」
斎藤は、自分一人で沖田と平助、二人を運ぶのは無理と判断し新八や原田を呼ぶことにした。
屯所へ帰るまでの間、名前は必死に風間千景のことを考えていた。同士。これはお互いが鬼であるということだろう。それよりも問題は雪村に反応したこと。自分は本当の雪村の子じゃない。だけど千鶴は・・・これからますます千鶴のことを見ていないといけない、と感じさせられた。あの人は危険だと頭が信号を出していた。
結局、過激浪士20数名のうち7名を討ち取った。
新選組は目覚しい成果を遂げたと言える。
だが、新選組が負った傷も少なくなかった。
この功績は瞬く間に人々の噂となり、広がることになる。