池田屋事件 (24ページ)
古高捕縛のため、急遽不逞浪士を取り締まることになった新選組。無論、準備が万全といえるはずがなく、時が悪く隊士の半数以上が動けない状態であった。さらに、四国屋と池田屋のどちらに浪士が集まるか分からず、四国屋へは土方、斎藤たち24名で、池田屋へは近藤、沖田たち10名で行くことになった。
「俺なら手薄になった屯所を襲撃する」
「同感です」
「後のことはあんたに任せる」
「お気をつけて」
山南、千鶴、名前はもちろんながら待機だ。土方は屯所に残る山南に注意を促す。山南も分かっている。新選組を潰したいと思う者は少なくない。
『沖田さん』
「ん?どうしたの名前ちゃん」
出動前、沖田に声をかけた名前はじっと沖田を凝視した。
「何?僕に何か用?」
『失礼します』
「うわっ、ちょっと、名前ちゃん!?」
がばっと沖田の着物をはだけさせ、上半身裸にすると名前はそのまま総司の胸に耳を近づけた。
「お、おい名前?」
そう呟いたのは斎藤だった。原田や新八は食い入るように見、土方も動きが止まっている。
「名前ちゃ・・・?」
沖田は突然の行動と羞恥心からか頬が軽く染まっていた。
名前には黒い靄が見えたのだ。微かにだが。それを確認するため名前は真面目な顔で沖田の胸元へと頭を埋める。
『・・・鼓動が速くないですか?』
名前はあくまで沖田を診断しているつもりなのだが。
「ちょっと、君、こんなことされたら誰だって速くなるって」
『そうですか・・・』
今度はペタペタと沖田の胸板を触る。沖田は限界がきたのか、名前の手首を掴んだ。
「ちょっと名前ちゃん。いい加減にしてもらえる?」
『ごめんなさい』
と言って、沖田の着物を整えた。
「何だったの?」
『・・・・・・肺、胸に注意してください』
「うん?分かった」
『平助君も』
「へっ!?俺も?」
急に名前を呼ばれた平助は驚いた。まさか自分の名まで呼ばれるとは思いもしていなかったのだ。
『額に気をつけてください』
「あぁ、分かった」
気をつけろといわれた額を触りながら相槌を打つ。総司から何となく聞いていたが総司本人もきちんと理解していないためあやふやな部分が多かったのだ。とりあえず額に気をつけるよう頭の隅に残しておいて名前から離れ千鶴の方へと向かった。
「てめぇらいつまで話してやがる!さっさと行くぞ!!」