池田屋事件 (23ページ)
名前が話し終わった後、誰も口を開かなかった。いや開けなかった。何と声をかければいいのかわからなかったのだ。
『以上です。まだ詳しく話せというなら追って話しますが。何か聞きたいことがありますか?』
「い、いや・・・その、悪かった」
『いえ』
土方はそれっきり黙り込んだ。それを確認した原田が口を開いた。
「ところでだ。聞いてて思ったんだが、名前ってもしかして・・・女、なのか?」
『はい。俺は、女です。皆さんを騙してしまい申し訳ありませんでした』
深く土下座する名前を見て、沖田以外は驚愕の表情を見せる。
「え、えぇっ!?本当かよっ!!?」
「でっ、でも証拠がねーじゃんか!」
あせったように口を開いたのは平助と永倉だった。
『・・・証拠、ですか。なら』
名前はもう隠す必要はないと判断し、上に着ていたものを肌蹴させて肌を見せ、晒だけの状態になる。
『・・・・・・これでいいですか?』
「あ、あぁ・・・」
皆、胸にある晒を食い入るように見つめる。平助と斎藤だけはちらちら見、ほほを赤く染めながらだが。
「僕の名前ちゃんを見ないでもらえますかー?名前ちゃん、もういいから」
そうですか、と名前は着直す。沖田さんのものになった覚えはないのだけれど・・・小姓という意味でだろうと考えた名前は素直に乱れた着物を戻した。
『これでわかってもらえましたでしょうか?』
「あ、あぁ・・・」
「ハァ・・・お前に羞恥心とかないのか!?」
土方は頭を抱えながら言う。
『そんな無駄な感情は必要ないでしょう?』
「はっ?」
『たとえ泣いたところで現状が変わるわけではありません。泣くだけ無駄でしょう』
泣き叫ぶ姿が好きな主人もいた。何もせず、じっと耐えているほうがよっぽど良いと名前は教えられていた。
「総司、お前は名前をちゃん付けで呼ぶようになったころから女だと気付いていたのか?」
「うん、まぁねー。一君、気付いてた?」
「いや・・・」
『沖田さんには晒を巻きなおしているところを見られたので』
ぶっっ!!
名前と沖田を除き、噴出す音が響いた。斎藤と平助はまたもや顔を真っ赤にし、土方も噴出していた。沖田は爆笑中である。
「ああ。あの時は、眼を疑ったよ。僕も本気で名前ちゃんのこと男だと思ってたし」
勘の鋭い沖田でさえ見抜けなかった男装だ。平隊士たちには名前が女だとばれることはないだろう。
「お前が人を簡単に殺せることは分かった。俺たちに害がないと証明できるか?」
『俺は今、千鶴に忠誠を誓っています。その千鶴がお世話になるのだとすれば新選組に忠誠するのも当然かと』
名前にとって簡単に言ってしまうと新選組は主人のさらに上の主人なのだ。そんな人たちに楯突いて主人、千鶴の立場を危うくすることなどありえない。
「・・・ま、今はそれでいいだろ。いいか?皆」
「土方さんがいいっていうならいいんじゃねーか?」
「土方さんに従うぜ」
そしてその会議は終了となった。