池田屋事件 (21ページ)
「たいしたお手柄ですね。沖田君」
巡察という名の捕り物から帰るとご立腹の山南が待ち構えていた。
「桝屋で斬り合いを始めるなど・・・それに一人は殺してしまったみたいですし」
『!!・・・ごめんなさい。それは俺がやったことです』
「おや、君が?」
『はい。申し訳ありません』
山南は少なからず驚いた。死体は心臓を一突きにしたと聞いている。いくら沖田と斎藤のお墨付きでも人を殺したことなどないと思っていたのだ。
「それにしてもさー、ずっと張り込んでた島田君や山崎君に悪いと思わないわけ?」
「俺たちも行き詰っていたところでしたし・・・」
「古高を抑えることができたんです。その結果で我々は満足です」
監察方の山崎、島田はそう言うが山南の小言はまだ終わらなかった。
「私が悪かったんです。父をあそこで見たっていう人がいて」
ついに耐えられなくなり、千鶴は自供した。
「君の監督不届きの責任は沖田君にあります」
そんな千鶴を一瞥して山南は言葉を続けようとするが、部屋へ入ってきた土方に遮られた。
「外出を許可した俺にも責任はある。そいつらばかり攻めないでやってくれ」
「土方さん」
「古高の拷問は終わったのか?」
あまり聞いてはいけない気がした名前は千鶴を連れて自室へ戻って行った。
『千鶴、綱道さんを見つけたい気持ちもわかるけど、落ち着いて。あまり勝手な行動ばかりとられると庇うことができなくなるから』
「うん・・・ごめんね」
しょんぼり、という表現が似合うかのような表情をみせる千鶴。そんな顔されてしまっては名前も忍びない。だがある程度は我慢してもらわないと、ここでは自由が利かないのだ。俺たちに何の権限もない。不必要になればすぐに捨てられる存在であることを理解して行動しなくてはならないのだ。
『全然。これくらいどうってことないよ。後で沖田さんに謝っとこう?』
「う、うん」
人を斬らしてごめん、と千鶴は言いたかったのだが、名前は勘違いをしたようだ。