池田屋事件 (18ページ)
千鶴が山南の部屋に入って行った後・・・
気配を消し、名前は山南と千鶴の様子を伺っていた。
あなたは結局居場所を作りたいだけなのですね、か。俺は居場所がないことが普通だけど、千鶴は違うもんね。千鶴は居場所がないことがどれだけ苦しいのか悲しいのか知らない。だけど、千鶴は自分のためにそんなこと言うような子じゃない。自分のためだけにそんなことできるような子じゃない。
千鶴の姿が完全に消えた後、俺は山南さんの部屋に入った。
『山南さん』
「今度は名前君ですか?私は形だけの同情なんて結構ですよ」
『いえ。俺はあなたに一言申さなければならないと思って参ったのです』
山南が突き放すように冷たく見据えても、それが何でもないように名前は平然を保ちながら言葉を続けた。
『たとえ如何なる理由があろうとも、上に立つものが集団行動を乱すようでは隊士たちの統率など整うわけがない』
「っ・・・」
その淡々と告げられた言葉を聴き、山南は苦痛に耐えるように顔を歪めた。無論、彼自身でもそんなことは理解している。しかしながらも、今の自分が新選組にいる理由は何だ、と考えてしまうとどうしても人と触れ合うのが恐ろしくなってしまう。周りの者が優しいからこそ、誰も自分を否定しないからこそ。その恐怖は増すばかりなのだ―――