池田屋事件 (17ページ)
数日が経ち大阪から土方、山南たちが帰ってきた。
「これからまた皆と一緒に食べられるな」
「うん」
だが、正確には皆じゃなかった。
山南は皆と口をきかなくなった。食事も自室で取るようになった。
「わっ、ごめん名前」
『いや、こっちこそ。・・・あれ?』
沖田さんに呼ばれ急いでいるところに千鶴と出会った。千鶴の手には膳が乗っていて、不思議に思う。それに気付いたらしい千鶴が説明してくれる。
「山南さんの食事。持って行こうと思って」
『・・・そっか。食べてくれるといいね』
「うん」
心配になった名前は用事を素早くすませ、山南の部屋に向かった。
いつも通り賑やかな食事は続いていた。
―――スッ
そこに計ったように広間の襖が開かれた。
「総長?」
「え・・・?」
それは・・・
千鶴の作った料理、お握りと味噌汁の膳を持った山南であった。彼は驚く幹部たちの視線をくぐり抜けて、自分の席につくと片手を膳の上に上げ小さくつぶやいた。
「いただきます」
「山南さん・・・!」
目の前のことが信じられないと言った顔の千鶴がその名前を呼ぶと彼は静かに微笑んだ。
「食事は大勢でとったほうが良いそうですから」
「あぁ、もちろんだとも」
近藤もそれに頷いて、広間全体が一気に和やかになる。うれしそうに口角を上げる千鶴に対して、名前はすました顔で味噌汁を啜っていた。あらかじめ、こうなることがわかっていたように・・・
「ねぇ、名前ちゃん」
『何ですか?』
「もしかして、山南さんに何か言ったの?」
隣で彼女の表情をうかがっていた沖田は小声でその真相を訊ねた。
『さぁ、どうでしょうね』
この反応から見るに、彼女が何か言ったんだろうなと沖田は悟った。