決着  (185ページ)

「南雲薫。どうして千鶴ちゃんの邪魔をする?」



ずっと知りたかった。気になっていたのだ。なぜ千鶴に執拗以上に拘るのか。苦しめるのか。その問いに薫は答える。



「俺は千鶴の双子の兄だ。この顔と刀で証明になるだろう。この刀は代々雪村家に伝わる刀だからな」



確かに薫の差している刀は千鶴のものと良く似ていて。全ての合点がいった。同じような匂いがしたのも。似た容姿を持っていることも全て。



「綱道は俺達の実の父親じゃないよ」



ここまでは私も薄々感じていた。匂いが違ったのだ。微妙に。そして薫は鬼の悲しい歴史を語る。



「俺達はこの村で生まれ育ったんだ。鬼達は人の世の争いを避け、 俺達も人の争いには関わらないと人間の誘いを断った。そしたらこの有様さ。人間達は俺達の力を恐れ、村に火を放ったんだ。それによって俺と千鶴は離れ離れになってしまった。だから俺は許せない。俺達の幸せを奪った人間に何も知らずに懐いてさ。俺はいつでも妹の不幸せを祈っているんだ」



耳を疑うような内容だった。鬼に、雪村家に、そのような悲しい歴史があるだなんて知らなかったのだから当然だろう。



「俺がどれだけ千鶴を探し求めたか、お前らには分からないだろう?」

『分かりません。妹の不幸せを祈っている貴方の気持ちなんて』



その言葉に薫は怒りを露にし、姿を変える。鬼に、ではなく羅刹という化け物に。



「君も変若水を飲んだの?」

「鬼である誰かが飲んでくれたおかげでね。改良がはかどったよ」



だから私に変若水を飲むよう迫ったんだ。私は羅刹となり、ただの実験体として使われてしまったんだ。その結論にたどり着くが早いか、沖田は地面を蹴り羅刹となって薫に斬りかかった。ヒュッンヒュッン、キン―――白い髪の、赤い眼をした化け物たちが争う。それを皮切りに先輩も私へと向かってきた。キンッ――その刀を払いのけた名前は驚いた。何とかつての先輩も羅刹と化していたのだ。分が悪いと本能で感じ取った名前は一瞬で羅刹と化す。そしてその場にいる元主人以外の者が羅刹と成ったのであった。

キンッヒュッヒュッキンッ―――刀同士がぶつかり合う音だけが当たりに響く。



『っ・・・』



だが段々名前と沖田は押され負けていく。



「ハァハァハァ・・・」



息を上げているのも二人だけだ。



『ど、して・・・』



なぜ?どうして彼らは日中、陽の元で普通に動けているの?私達はこんなにも苦しみながら戦っているというのに。



「簡単な答えだよ。名前。俺達は陽の光でも活動できるようになった改良型だからさ」



あぁ。だからこんなにも動くことができるんだ。私や沖田さん、平助君が飲んだのは改良前の陽の光に弱い羅刹。その弱点を克服した改良型の変若水を飲んだのが先輩と南雲薫。だから敵わない。先輩と戦いながらも情勢を確認する。その時、微かに数人の臭いが鼻を掠めた。



『まさか』

「気付いたか?やはりお前は優秀だな。おい、出て来い」



かさかさと近くの叢から出てきた数十人の奴隷達。五つ位の子から大きな子では元服していてもおかしくないくらいの年齢の子供達が刀を私と沖田さんに向けている。暗闇しか知らないという瞳で。自由なんて知らないという瞳で。あの子達は昔の私だ。昔の私も同じように人として死んでしまっていた。

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