決着 (179ページ)
何となく僕は気付いていた。名前ちゃんが薫一人に執着している訳では無いってことに。だからこそ気になったのかもしれない。けれど聞いてもいいものか分からなくて何も言わずに一緒にいた。そんな折、彼女は自ら口を開いた。
『あの人、療養所に来たあの人が、俺の初めての主人なんです』
「それって・・・」
名前ちゃんに酷いした初めての人ってこと?言う前に名前ちゃんはこくんと頷いた。
『俺はあの人から大抵のことを学びました。泣かない方がいい事や感情を無くしたほうが良いこと等を』
僕にも全く理解できないわけじゃない。内弟子に出されて始めは皆が敵に見えていた。誰も助けてくれない。誰も味方などいないのだと。
『あの時、戻ってこないかと誘われました。俺はもちろん断りましたが・・・その時、主人の匂いと共に南雲薫の香りがしました。それは現在もです。南雲薫の香りを探そうとしたら主人の匂いも見つかる』
つまり初めてのご主人様と南雲薫が一緒にいるってことね。
「そっか、だから・・・」
名前ちゃんが前に進むために。必要なんだ。
『沖田さんまで巻き込んでしまい申し訳ありません』
「僕が好きでついて来たんだよ?君は何も気にしないでいいの。それから・・・」
ずっと気になっていた。新選組を抜けたというか新選組に死人扱いされてからも一人称が”俺”のことに。
「もう男のふりなんてしなくていいから」
どうせ僕しか隣にいない。急に女の子になれなんて無茶苦茶かもしれないけれど少しずつ女の子としての名前ちゃんに触れてみたい。
『・・・分かりました。気をつけます』