君が故 (176ページ)
千鶴と土方が峠へやって来る少し前。
『ごほごほげほっ・・・おわり、ました、ね』
「ハァハァハァ・・・うん。そう、だね」
肩で呼吸する僕達は背中合わせに座り込む。あちこち撃たれて、刺されて、ぼろぼろになった身体は完治するまで時間がかかりそうだ。そんな中、名前ちゃんは刀を支えによろよろと立ち上がった。
「何、してるの、名前ちゃん」
勢い良く地面に刀を刺した。これでもかってほどの力を込めて。
『・・・雪村名前はここで死にました』
「え?」
言っている意味が分からない。だって名前ちゃんなら今生きているのだから。
『俺は、ここで死んだことにしておいた方が都合が良いんです』
言おうとしているのが何となく分かった。彼女は新選組を抜けようとしている。だからこそ自分は死んだことにするのだろう。そうすれば誰にも咎められない。彼女は隊士ではないけれど。
「僕も、一緒に行っていいよね?」
新選組一番組組長沖田総司は死んだ。あれだけ弱った姿を隊士たちに見られているんだ。労咳であったことはばれているだろう。ならばそのまま朽ち果てたとしてしまえば話は早い。
『いいの、ですか?』
「もちろん」
僕もこれ以上新選組にはいられない。近藤さんがいない新選組には。それに・・・名前ちゃんと一緒にいたい。僕も愛刀のうち一本を抜き出し、地面へ突き刺す。
「新選組の沖田総司はここで、死んだんだ」
長々と戦場にはいられない。たとえ怪我が完治していなくともあの人たちが来るであろうから。
「そろそろ行こうか」
『はい』
十分に傷が癒えた訳ではない。だがそれ以上いられなかった。死んだとする今、千鶴にも土方にも姿を見せるわけにはいかない。彼らはゆっくりと歩き始めた。山の奥の奥へと。自分たちの姿が見えないように。