君が故 (173ページ)
『沖田さん・・・』
名前は沖田の匂いを辿り、彼の元に着いた。そしてそっと沖田の背中から抱きしめる。それは今にも壊れそうな家の中で。誰も住んでいないのだろう。手入れがされておらず、所々に蜘蛛の巣が張ってある。
「まさか、僕より先に近藤さんが逝ってしまうなんてね」
放心した様子で沖田さんは言葉を発する。まるで自分への戒めかのように。
『千鶴が、言ってしました。土方さんが囮になろうとしたけれど近藤さんに止められたと。土方さんは苦しんでいるけれど、近藤さんから託された新選組だから必死に守っているのだと』
「確かに今、新選組を引っ張っていけそうなのはあの人だけだってことは分かってるんだよ」
理解するのと納得するのでは意味が違う。そう沖田は言いたいのだろう。ぎゅっと回した腕に力を入れる。あの時と同じ様に安心させるように。
「何、してるんだろね僕・・・」
彼は自嘲じみた笑みを浮かべる。けれど突然鋭い視線に代わる。そして俺も。気配を最大限まで消し、外の様子を伺う。
「・・・土方だ。間違いない」
「あの宿に潜伏している」
「よし、皆に知らせ・・・」
完全には聞こえなくても、これがよくない話だということくらいは分かった。沖田さんにもそれが分かったようでチキ…と刀を抜く。
今の言葉から考えられるのは、この浪士たちが今から土方さんを殺そうとしているということ。
「近藤さん。近藤さんが新選組を託した土方さんなら僕も守らなきゃ駄目だよね」
ぽつりと沖田が呟いた。いつでも斬りかかれる様に準備し外の様子を伺う。僕は戦う気だけれど、ただでさえ労咳で命を削っている名前ちゃんに戦わせるわけにはいかない。そう思って僕は彼女に土方さんの所に戻るように伝えるのだけれど、彼女はそれを否定する。
『俺も、戦います』
しっかりとしたその瞳。何を言っても引かないのだろう。
「・・・分かった。無茶しちゃ駄目だよ?」
『はい』
僕達はこうして命を削っていく。