池田屋事件 (15ページ)
『男だと名乗っている以上、胸があったら変なのはわかるけど毎日潰しているのは辛いかも・・・』
毎日毎日晒しを巻いて、最大限まで平たくしている胸。寝ているときも何かあったらまずいからさらしを巻いていて、着替えとお風呂のときだけ胸が自由といった状態だ。
『早く着替えて沖田さん起こしにいかないと』
着替え中は監視役の人の気配が消える。さすがにそこまでしないらしい。そうでなければ俺はとっくに女だとバレているだろう。いつもより遅くなってしまったな、とせっせと寝汗で濡れた晒しをとり、新しい晒しを巻いていると、急に襖が開いた。
「名前君、今日、起こすの遅く・・・」
沖田はいつも気配を消して名前の部屋へずかずか入ってくるので、対応ができなかった。彼は名前でさえ気配を察することは難しい。言葉は途中で止まり、視線は男にはないはずの名前の胸に注がれている。
『っ!!・・・申し訳ありません。もう少し待ってもらっても良いですか?』
「え、あ、うん」
動揺している沖田は混乱状態で部屋を出た。彼は部屋の前で立ちすくんでいた。名前君は確かにかわいい顔してる。背は僕より低いけど、平助より大きいし。どっちかっていうと一君との方が近いし。え?え?理解しきれない。名前君は彼じゃなくて彼女・・・?ぐるぐると頭が混乱している間に襖が開いた。
『お待たせしました』
いつもの仏頂面で何事もなかったように言う名前を見て、沖田はさっきのことは夢だったんじゃないかと思ってしまう。だが、部屋に沖田が入ると名前は土下座した。
「えっ、ちょ・・・」
『申し訳ありませんでした。あの時は俺までもが女だと言うと話がややこしくなると判断し、男だと偽っていました』
夢なんかじゃなかった。名前は女の子なんだ。
「顔上げて名前君」
ぺたぺたぺた
『・・・あの・・・・・・』
顔を上げた名前の服の上から胸を触る。ほとんどわからないけれど確かに胸っぽい膨らみはあった。
「君、本当に女の子・・・なの?」
『はい』
「ふーん」
僕とあろうものが気付けないだなんて。
『お、沖田さん・・・?』
いつもの仏頂面に少しだけ不安さを見せる名前君。ぎゅっと名前君、いや名前ちゃんを抱き寄せて。
「こののこと知ってるのは僕・・・だけ?」
『はい。新選組では沖田さんだけだと思います』
良かった。他の人に知られてなくて。
・・・良かった?何が?僕、何か調子がおかしいのかな?
「やっぱり、名前ちゃんって柔らかいよね。」
『ちゃん付けは・・・』
「大丈夫。理由は僕が適当につけてあげるから」
『・・・・・・・・・わかりました』
半ば諦めたような声で彼女は言った。
「総司、名前。飯だ」
「あ、一君」
『はっ、はい』
僕たち抱き合っていたんだけど、一君は動揺しなかったな。(って言っても僕が一方的に抱きついてるだけだけど)つまんない。あとで平助あたりをからかおうっと。
「名前ちゃん、行くよ」
『はい』