君が故 (172ページ)
そして名前は沖田を追う前に土方の元へと向かった。土方に報告しなくてはならないことがあったからだ。
『土方さん。言っておきたいことがあるのですが』
千鶴には言えなかった。言うことができなかったのだ。
『・・・綱道さんを原田さん方は殺害したそうです』
「なっ・・・原田方ってことは原田と新八か?」
『いえ、原田さんと不知火匡です』
土方は驚愕の表情を浮かべる。
「なら原田は生きてるんだな?」
『・・・・・』
土方は当然、原田が名前に伝えたのだと思った。だが彼女は黙っている。
「まさか」
原田は。そう言い終わる前に名前は首を縦に動かした。
「・・・そうか」
『それから既に耳にしているかもしれませんが、羅刹となった者は最期・・・無になります。死ではなく、灰になり、跡形もなく消えてしまうそうです。羅刹としての力は無限じゃない。自らの生命力です。羅刹の力を使わなければ化物としての寿命を全うすることになるのでしょうか・・・』
「それは確かな情報か?」
『恐らくは。実に買ってながら、千鶴をあなたに頼みたい。俺はもう長くありません。羅刹の力を持ってしても、俺の中にある死病は今も体を蝕んでいます。・・・千鶴をお願いいたします』
「・・・待て」
頭を下げ、部屋を出ようとした名前を土方は制止する。ぴたりと止まって土方の言葉を待つ。
「・・・総司を、総司を頼んだ」
『はい』
そして彼女は寂しく綺麗に微笑んだ。土方が初めて見る表情で。