君が故  (168ページ)

日光で土方は宇都宮城での傷のためしばらく治療を受けていた為に旧幕府郡と離れていた。風間に城内で斬られた時の傷が羅刹だというのになかなか塞がらなかったのだ。動ける程度まで回復した土方は街道を北上していた。



「ハァ・・・」



傷が癒えきったかと言えば嘘になる。だが動けねぇほどじゃねぇ。先陣きって戦うことぐらいできる。・・・千鶴には心配させちまうかも知れねぇがな。

書類に向かっていた俺は外の空気を吸おうと部屋を出た。

すると暗闇から月の光を浴びて人影が現れる。その影は少しずつこちらへと歩いて来ているようだ。



「総司に名前、か?」



俺は勿論名前が羅刹になったことなんて知らなかったし、当然のように名前は療養中、総司もそれに付き添っているものだと思っていた。



『お久しぶりです土方さん』



名前は礼儀正しくお辞儀をするが総司は俺を睨んだままだ。こいつは、もしかして・・・



「近藤さんのこと、聞いたのか?」

「えぇ」



鋭く素早く総司は返事をした。冷たい瞳で俺を監察する。俺の心情を読もうって訳か?近藤さんの話はいずれするべきものだと分かっていた。それが早いか遅いかの違いだけだ。総司と二人で話したいという俺の気持ちを察したのか名前はそっと離れて行った。


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