君が故 (166ページ)
それは江戸でのこと。
不知火は原田と一緒に綱道率いる羅刹軍と戦っていた。何とか羅刹達を一掃し、綱道を殺害するに至った。だが原田は―――瀕死の傷を負ってしまっていた。
木に背を合わせながら話す。もう駄目だと分かっていた。だから最期に何かしてやりてぇと思った。何故だろう?かつてのダチ、高杉に似ているからだろうか。
「お前はこれからどうするんだ?」
「名前や、羅刹になった、奴らに、あのことを伝え、て。しん、ぱちが、待ってる、から、会津、へ、いかねぇ、と・・・・・・」
だらしなく力を失った腕。チラリと原田を盗み見ると瞳から光が消えてしまっていた。しばらく冷たくなる原田と空を眺めていた―――
「それから名前、これは俺様からの忠告だ。そろそろ戦うのは止めとけ。下手したら一年経たずに死んじまうぞ」
「え?」
名前を沖田は見つめる。だが名前は気まずそうにその視線から逃れるだけだ。
「お前・・・こいつに言ってなかったのか?」
沖田の反応が意外だとでも言うような声を発する不知火。名前は何も発しようとしない為、沖田は不知火に詳しく説明を求めた。
「ねぇ、どういうこと?」
ちらりと不知火は名前を盗み見てから言葉を発する。
「ま、簡単に言うと労咳は治っちゃいねぇってことだな。紛い物になったからと言って死病は治せねぇってことか」
「でもっ、彼女は咳をしていない!!」
そう。沖田は名前が羅刹になってから咳き込んでいるところを見ていない。だから羅刹と成り、労咳は治ったものだと思い込んでいた。
「ハァ・・・知らねーよ。隣の奴に聞け」
下に下がっていた目線は既に不知火を睨んでいた。
『・・・どうし、て?どうしてあなたがここまでするのですか』
「これでも結構、俺様、お前たちのこと気に入ってるんだぜ?簡単に死んじまうのは勿体ねぇ。それにもう俺様は長州へ帰ろうと思っているからな。最後の一仕事だ」
『風間、は・・・』
「あいつは鬼の一族から逸れたからな。もう知ったことじゃねぇ。それよりお前らが追っている奴とかと一緒に南雲のやろうがいたぞ」
『え?』
「どんな関係か何てわかりゃしねぇけど。じゃあな」
微かに見えてくる新政府軍に不知火は忌々しそうに舌打ちした後、奴らを銃撃し、消え去った。