君が故 (165ページ)
『沖田さん』
ぐいっと名前は沖田を引っ張り叢へと実を隠した。鬼の気配を微かに感じたのだ。だが次の瞬間にそれは無意味と化した。
「無駄だぜ。気配で簡単に分かる」
目の前には不知火匡の顔。そして後ろには大木がある。逃げ場などない。
「それ以上名前ちゃんに近づかないでくれる?」
沖田の方へ名前は引き寄せられる。不知火匡はやれやれといった表情を浮かべて肩をくすめながら言った。
「ちょっと面白い情報を手に入れたからな。教えてやろうと思ったんだよ」
「面白い情報?」
「あぁ」
少し決まりの悪いように不知火は嗤った。
「羅刹はな、寿命になると灰になりやがるんだよ」
綱道から聞いたと付け加える。本当に綱道が言ったとするならば、その情報は確かなものだろう。だが不知火が嘘をついていないという確たる証拠もない。灰になるところを誰も見たことがないからだ。
「へぇ、それを僕達に知らせてどうするつもり?」
「別にどうもしねぇよ。原田に頼まれたから約束を守ってやってるだけだ」
『原田さんが・・・?でも、それを守る理由なんて』
「鬼は約束を破らねぇんだよ」
少し寂しそうに笑った後、彼は同意を示す。
「羅刹としての力を使えば使うほど命は短くなるからな。気をつけろ」