君が故 (162ページ)
とある町。たまたま寄った町で近藤のことを聞いた。ただ捕縛された近藤がどうなっているのか知りたかっただけだったのに。
「近藤さんが処刑された・・・?」
沖田には絶望的な情報であり、名前にも衝撃を与えたものであった。その日はそのまま北上することもなく、宿を取り、一晩過ごすこととなった。
『近藤、さん・・・』
いつかこんな日が来るのを恐らく分かっていた。だけど分かっていない、気付いていないふりをしていた。得体の知れない俺を受け入れてくれた近藤さん。まるで父のように優しく接してくれた近藤さん。こんな俺に稽古をつけてくれた近藤さん。お土産をたくさん買ってきてくれた近藤さん。少なからず俺は近藤さんが好きだった。もっと早く出会っていたかったと思うほどに。
瞳には水が溜まる。だけど俺は涙を流さなかった、いや、流せなかった。
隣の部屋から沖田さんの嗚咽ような声、そして壁か畳を叩く音が聞こえてきたから。
「おはよ、名前ちゃん」
『おはようございます、沖田さん』
互いに顔を見られないように下を向いたまま挨拶を交わす。そのまま準備されていた朝餉を食べ、宿を後にした。
俺はどうすればよかった?俺はどうすればいい?何て言葉をかければいい?無言で走る沖田に名前は話しかけることができなかった。