君が故  (148ページ)

土方も山南が千鶴のいる部屋に入るのに気付いたのだ。だが土方が向かったときには時既に遅く、山南が部屋を出て行く姿しか見ることができなかった。ご機嫌な山南に警戒しながらもその後に出てきた名前を捕まえる。



「おい」

『何でしょうか。土方さん』



用事を頼んだのは土方の方だ。体調が悪いというのに屯所まで呼んだのは悪いとは思っている。だから叱る資格なんかねぇのかもしれねぇが、どうしてあんなことをしたんだと怒鳴りつけようとした所、先手を打たれる。



『千鶴のことよろしくお願いしますね』



たったのそれだけの言葉。それだけを発して名前は俺の腕から逃げ出した。



「チッ…」



真っ白な顔しやがって。無茶してんじゃねーよ。千鶴ならいくらでも俺が守ってやるから。お前は総司に大人しく守られてろ。・・・と言っても素直に聞くお前じゃないからあいつが惚れたんだろうな。何て考えていたらいつの間にか千鶴の部屋の前まで来ていた。先程、何が起きたのか現状を確認しなければならない。それが新選組副長としての仕事だ。



「千鶴、ちょっといいか」



有無を言わさずに俺は部屋へと入り、何があったのか事細かに聞き出した。

土方は千鶴から事のあらましを聞いた後、そうか…と小さく呟き何かしら考える様子を見せた。そして顔を千鶴に向けたかと思うと、妙に神妙な顔で言った。



「江戸で辻斬りが増えている」

「・・・では、君菊さんが言っていたことは」

「隊としてもこのままにはしてられねぇ。いずれ始末をつける」



山南さんには気をつけろと土方は言い、部屋へと戻って行った。名前ともう一度話したいと思ったが、気配を感じ取れないことから本当に療養所に戻ったのだろう。



「ったく、頭がいてぇったらありゃしねえ」



新選組のこれからのこと。山南のこと。近藤に名前のこと。その二人についている沖田のこと。考えることは山ほどある。いつも邪魔してくる沖田が屯所にいないだけましなのかもしれないが。



「いねぇのはいねぇので寂しいもん、だな」



いつも怒らせられてばかりだけれど。俺たちは兄弟みたいな不思議な絆で結ばれていて。いたらいたらで鬱陶しいがいなければ寂しく感じる。馬鹿みてぇだなと思いながら部屋へと土方は戻った。

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