君が故  (147ページ)

新選組は江戸へ戻り、品川のとある処に身を寄せることになった。怪我の癒えきっていない近藤、そして労咳の名前、その二人と一緒にいたいという本人たっての希望で沖田は皆と別れ療養所へと移動した。

土方は連日働いており、日増しに疲労の色が濃くなってきていた。そんな折―――



「あなたは鬼です。そしてその血は羅刹の力を完全に抑える力があるかもしれません」

「どういうことですか?発作を抑える薬があるじゃないですか」

「ただほんの少し血を分けてもらえるだけでよいのです」



山南は千鶴に血を求めていた。あくまで表面上では羅刹のためだと言い張って。彼は刀を抜き、千鶴へと向けていた。千鶴は狂気が自らに向かっている事実に恐縮してしまい声が出せない。その時、襖が開いた。



『鬼の血が必要なら、俺の血でも問題ありませんよね?純血ではないとは言え、俺だって鬼の端くれ。千鶴の血を採る必要はないでしょう』



名前が山南の手首を掴み、睨みながら言った。明らかに敵を見る瞳で。



「名前?」

『大丈夫だよ千鶴。千鶴には一滴も血を流させないから』



ふと優しい眼で千鶴の方を見、山南へと開き直る。そして山南から刀を奪い取り自らの手首へと近づけツーと一滴の血の流れができた。



『・・・どうぞ』

「ご協力感謝します。名前君」



山南は名前の血を摂取した後、満足そうに部屋から出て行った。



『じゃあね』



そしてその後を追うかのように名前はすぐに部屋を立ち去ろうとしたが千鶴に止められた。



「名前っ、どうして・・・」



どうしてここにいるの?どうして山南さんに血を分け与えたの?聞きたいことは沢山あった。だけど、名前の悲しそうな寂しそうな笑った顔に私は口ずさんでしまう。その内にとそそくさ名前は出て行ってしまった。

千鶴のいる部屋から少し離れたところで彼女は咳き込んでいた。千鶴から離れた大きな理由はこれである。感染病である名前が目の前で咳をしてしまったら移る可能性がある。それに千鶴に弱っている自分を見せたくなかったのだ。



『こほっげほげほげほっ・・・』



意思とは真逆に明らかに病弱になっている身体。もう長くは持たないのだろう。だが、もう千鶴は俺がいなくても守ってくれる人がいる。俺がいなくなっても大丈夫だろう。と、名前が廊下を曲がった所で腕を急に引かれる。



『・・・何でしょうか。土方さん』



いくら気配に敏感ではなくなったと言えども、これだけのものを出していたら気付くであろう気を土方は放っていた。偶然か必然か。そんなことを気にしている余裕は名前にはなかった。



『そろそろ戻ります。千鶴のことよろしくお願いしますね』



土方が発言する前に、それをさえぎるように名前は言い、逃げ去るようにその場から去った。後ろで土方が舌打ちする声を聞きながら。



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