君が故 (146ページ)
もうすぐで江戸に着く。長い船旅である。そんな中、山崎を水葬したすぐ後に名前は体調を崩していた。
『ハァハァ・・・げほっげほっ』
かなりの熱だ。働かないとと思う反面、動きたくない、寝ていたいという葛藤が生まれる。名前は立ち上がることすら困難な状態であり、再び眠りについた。
「大丈夫?」
次に目が覚めたときには目の前に沖田がいた。寝ている時に気持ちいいと思ったのは沖田に濡れた手拭いを頭にのせてもらっていたからであろう。
『はい、ありがとうございます』
起き上がろうとするのを沖田に止められ、また布団の上へと転がる。
「まだ寝てないとだーめ」
沖田はそう言うと名前の手を握った。
『気持ちいいです・・・』
自分の熱を持った手には沖田の手は冷たかった。だが今の名前にとって気持ちの良いものだった。ずっと握っていたい、そう思った矢先に沖田を呼ぶ土方の声がした。
「総司ー?」
聞こえているはずのその声を無視して名前に笑いかけている沖田に名前は恐る恐る聞いてみた。
『あ、あの、土方さんが探していますよ?』
「あの人の顔見るより名前ちゃんの顔見ていたいんだけどなー。名前ちゃんがそういうなら仕方ないか」
沖田は名前の側を離れるつもりはなかった。が、促されたこともあり立ち上がった。
「ん?どうしたの?名前ちゃん」
『あっいえ・・・』
沖田さんが立った瞬間に裾を掴んでしまった手を咄嗟に引っ込めた。
「大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから」
安心させるような笑みを浮かべて、沖田はそっと名前の手を離し部屋を出て行った。
先ほどまで掴まれていた裾を沖田は触る。もしかしたら彼女が見せた初めての”弱さ”だったのかもしれない。彼女が自らさらけ出した”弱さ”。
沖田は珍しく土方の待つ部屋へとご機嫌なまま行った。沖田の笑顔を見た土方は奇妙そうな顔をしていたが。