君が故  (144ページ)

暖かい・・・それはまるで誰かに抱かれているようで。名残惜しくも目を開くと目の前には沖田が。



『沖田、さん?』

「ん?おはよう名前ちゃん」



まるで、ではなく沖田に本当に抱かれていた。隅で足を抱えるように座りながら眠っていたはずなのにいつの間にか布団の中へと入っていた。



「あはは、大丈夫だよ。僕が勝手に名前ちゃんの部屋に入って布団敷いてそこに引きずり込んだから」



まるで名前の疑問に気付いたように沖田さんは答える。



『どう、して』

「怯えてたから、ね」



記憶に無いだけで、あの夢を見ていたのかもしれない。だとしたら魘されていたということも理解できる。彼に感謝しなくては。



『ありがとうございます』



主人に再会してからも怖かった。全てのものに怯えていた。だけど、この人には安心できる。



「そういえばさ名前ちゃん、君からもらったこの紐、もう切れちゃったんだけど」

『あぁ、そこに入れた分の力を使い切ったからですね。新しく作成しておきます』



それは随分前に渡した鬼の力を込めた紐。恐らく沖田さんで切れてしまっているのなら他の人たちも切れてしまっているのだろう。



「いいよ。それより名前ちゃんは治す方を優先してね?」

『はい・・・』



もう無理なのだ。自らの力では治すことなどできない。俺の鬼の力はもう尽きかけている。ふと、沖田さんのほうを見ると何やら苦しげな苦しげな表情で汗をかいていた。



『沖田さん?』

「っ、大丈、夫」



明らかに強がった顔で大丈夫と言う。俺は多少無理矢理に沖田さんを部屋へ帰した。羅刹になれば陽の光に弱い。沖田は名前と少しでも話すために無理をしていたのだった。人の気配に敏感だったはずの名前が寝ている時に。他人に近づかれても起きることのないほど弱っている名前と少しでも会うために。たとえ自分がつらくても。

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