君が故 (143ページ)
あの後から名前はかなり怯えていた。どうしてあの人が?嫌だ思い出したくない。沖田さんは…新選組の皆は違う、違うと思ってもどうしても恐怖心が勝ってしまう。小さな頃の傷はそう簡単に癒えてはくれなかった。
名前は部屋にこもることが多くなった。調子が悪い、と言って誰も部屋に入れさせようとしなかった。
「名前ちゃん、いい加減にご飯食べないと・・・」
そう言って入ってきたのは沖田。お盆の上にはお粥らしきものがのっている。名前は丸まっていた布団から顔を出し、沖田のほうを見た。前の表情の欠落した顔で。彼女の瞳は真っ暗で、まるで深い闇を表しているようだった。
「名前ちゃん?」
『す、すみません』
無表情は自然に解け、瞳の中も光がさした。沖田は粥を差し出しが、喉が痛む名前はあまり粥を食べることができなかった。
「はい、薬」
沖田はほとんど減らなかった粥を見ながら薬を渡す。が、名前はぷいと横を向いて拒否する。
『・・・これ、苦手、です』
苦いから苦手。味を感じなかった時には何とも思わなかったのに。というかその頃には薬なんてなくてもすぐに治ったのに。
「だーめ。飲むのも痛いかもしれないけれど我慢してね」
『・・・』
水が通るだけでも喉が痛い。ひりひり焼けるような痛みが走るのだ。そのまま首を逆方向へ向けている名前の顎を沖田は掴みあげた。
「仕方ないなぁ」
言葉と違って、嬉しそうな声で言った。そして自ら薬を飲んで、水を飲み・・・
『んっ!?』
無理矢理名前の唇を開き、薬と水を流し込む。溢れた水が名前の顎から畳へと落ちていく。
『っ、んぅ』
口の中に含んでいたものを全て流し込んだ沖田は名前を解放した。
「ぐずる悪い子にはお仕置きだよ」
そう言い、自らも顎に流れた水跡をぺろりと舐めた。