君が故 (142ページ)
「・・・ざわざこんな所にまで・・・・・申し訳・・・・」
近藤さんの声?誰か来ているのだろうか。調子も大分良いからお茶を出そうと思った名前は凍りついた。
「名前ちゃん?」
たまたまそこを通りかかった沖田が声をかけるが返事が無い。襖の前で固まったままだった。
『・・・ぁぅ、あ』
言葉を発したと思えばこの有様。何を話しているのか分からない。沖田は今にも毀れそうになっているお茶を取り、名前の腕と共に部屋へ引っ張り込んだ。
「名前ちゃん大丈夫?」
名前の震えが収まった頃、沖田は声をかけた。だが名前は小さな声ではい、と言うだけ。
「おーい、総司、名前君。体調がよければ見送りにきてくれんか」
名前は青白い顔色のままふらふらと立ち上がり声のした方に向かう。そんな名前を沖田は心配しながら後を着いていった。
「二人とも来たな!今は体調を崩していますが腕っ節はものすごい二人でしてな・・・」
近藤が二人を自慢するも、名前の顔色は晴れないまま。沖田は愛想笑いを浮かべていた。
「かの有名な沖田総司さんですね。名は知っております。それにまさかこの子まで。こんなところにいたなんて驚きです」
そして近藤と話していた相手が名前へと近づき―――
「お前が新選組となっているだなんてな。随分と出世したもんだ」
『・・・申し訳ありません』
名前は体をがたがたと震わせながら答える。
「ところで、また俺のところへ戻ってくるつもりはないか」
『ありがたいお言葉ですが申し訳ございません。今はこちらにいるので・・・』
後半は蚊の鳴く声のような小さな音だった。だがそれをきちんと聞き取った客人は言葉を続けた。
「そうか。なら気が向けば来るように。東北の方にいる」
軽くこくんと頷いたのを見、満足そうに客人は名前から離れた。
「ではまた」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
相手の背中が見えなくなってからも名前は呆然と立ち尽くしていた。
「名前ちゃん?」
『・・・はっ、あ、大丈夫です。早く部屋へと戻りましょう』
「う、うん」
沖田は名前の気迫に圧倒されながらも戻った。
『どう、して・・・』
そう呟いた名前の声は沖田の耳に入ってこなかった。