君が故 (141ページ)
体調が良くなった沖田は寝床を抜け出して町へと出かけていた。食欲の無い名前に少しでも何か食べさせるためだ。栄養が無くても何か口にしてくれるだけで良い、沖田はそう考えていた。
「はい、お土産。金平糖だよ」
『ありがとうございます』
お土産だけは大人しく名前も食べ、あーんと金平糖を食べさせあうのが決まりとなっていた。おかげで沖田はご機嫌だ。
『・・・っごほごほっげほ』
ピチャ…と沖田の前で初めて血を吐いた。それを見た沖田は彼女の背をさすろうとする。だがその手は届くことなく自身の胸を苦しそうに押さえ込む。
「名前ちゃん大丈・・・ぐっ!?」
どくん。沖田の心臓がどくんと跳ねた。そして茶髪は白髪に、綺麗な翡翠の瞳は真っ赤に染まりあげた。
「あ・・・ぅ・・・っあ」
名前の血を見て沖田は初めての吸血衝動に駆られたのだ。
『だ、誰か!!』
どうすればよいのか分からない名前は助けを呼ぶ。その声に気付いた松本先生がやってきた。
「・・・吸血衝動と言うやつだな。血を飲ませれば治るらしいぞ」
「僕はっ、血、なんて・・・飲ま、ない」
人間のすることじゃないから、と。血を飲めば治るのなら俺の血を渡すのに。沖田の意思を大切にしたかった名前は自らの血を流すことを躊躇った。
「・・・すまんな。お前さんに賭けてみたかったんだ。吸血衝動を抑えるための薬がある」
『これは?』
「吸血衝動を抑える薬だ。一時的な効果しかないらしいが」
沖田は松本先生の差し出す薬を貰い、水と一緒に流し込む。
「こほこほっ」
『大丈夫ですか?沖田さん』
「一応は収まったようだな。私のほうも医者として何か手がかりを探しておいてやろう」
咳き込む沖田を見ながら松本先生はそう言い残した。羅刹という恐怖が、今まで遠かった怖さが、胸に刻み込まれた出来事だった。