君が故 (139ページ)
「おかしいですね。羅刹となったならば弾を出せば怪我は治るはずなのですが」
急いで沖田を屯所に連れて帰った。が、沖田の怪我は塞がらなかった。羅刹であるというのに。
その騒ぎに名前は目を覚ました。体がだるく動かすのも怠かったが、何があったのかを確認したかった名前は布団を抜け出し、広間へと這いずりながら移動した。
『・・・どういうことですか』
その光景を見て驚いた。あの沖田が倒れているのだ。沖田が羅刹になったことを彼女は知っている。羅刹ならば例え、倒れるほどの怪我を負ったとしてもすぐに治るはずだ。なのに目の前で羅刹の沖田が倒れている。驚くなという方が無理だろう。
「名前・・・」
千鶴は心配そうに名前を見やったが、何とも無いかのように沖田と近藤の方を見つめている。のろりのろりと二人に近づく名前。見つめていた斎藤がそれを止める。名前に移してまで治ろうと沖田は考えていないと。今の、名前自身の病気でいっぱいいっぱいになっている彼女に頼むことが出来やしない。
『・・・なら。・・・ごほっ、空気を綺麗にしました。これで少しは治りが早いか、と。けほけほっ』
それだけを言い残し、名前は真っ青な顔で広間から出て行った。後からごほごほっと激しく咳き込む声が聞こえてきた。
「・・・ったく、あいつにはかなわねーな」
無茶をするなと言ってもまるで効き目が無い。そんなにも俺たちの為にする義理はないっていうのに。
「土方君。少しよろしいですか。どうやら弾は銀のようです」
「銀の弾?どういうことだ?」
「今の状態ではまだ何とも。ですが銀の弾こそが羅刹の弱点なのかもしれません」
山南の考えには筋が通っていた。弾を抜いても治らない傷。ただの銃ではない。では違いはといえば弾くらいしか見当たらないのだから。
「こうなったら、総司も近藤さんも名前も松本先生の治療を受けさせるしかないな。大阪へ搬送するぞ」
名前のおかげで顔色は良くなったが未だに目覚めない沖田。それに肩を撃たれて刀を持てない状態の近藤。労咳でかなり咳き込み、身体が弱ってきている名前。土方の命令により五日、三人は後護送された。それは鳥羽伏見の戦いが勃発する少し前のことだった。