力の代償  (137ページ)

「名前ちゃん!」



名前の声を聞きつけ沖田がやってきた。沖田は風間の足元で倒れこんでいる名前を見、瞬時に風間に斬りかかった。それを軽々と避けた風間は名前を隅のほうへと蹴り飛ばした。



「ふん、お前ら人間は所詮その程度なのだ。俺たち鬼には敵わぬ生き物。こやつも哀れなものだな。お前のような役立たずに気を許すからこうなったのだ」

「うるっさい、なぁ!僕は、僕は役立たずなんかじゃない!!」



沖田ははっきりと言い切った。その言葉を聞き、風間は面白そうに顔を歪める。

カン、キンキンッ―――屯所内に刀の音が響き渡る。技術的には風間より上な沖田。だが力の面で押されてしまう。段々と沖田は風間に歯が立たなくなっていき、押し負け、地面に這いつくばるような体勢になった。だがそれでも目だけは諦めずに風間を睨みつけている。風間はぼろぼろになった沖田を見下しながら言い放った。



「何が、役立たずじゃない、だ。結局名前がしたことの半分も返せていないではないか!所詮、人間などこの程度なのだ。まだ病に侵されている名前の方が張り合いがあったぞ」



風間の言うことは最もだ。そんなこと僕が一番理解している。なのに体は動かない。そんな時、胸元に怪しく赤光る瓶が目に入った。それは風間にも見えたようで・・・



「ほぅ、紛い物になる薬か。飲んでこの俺を倒してみるか?」



これは挑発だ。そうは分かっていても今の僕は”力”を求めずにはいられなかった。そして―――瓶を取り、ごくりと飲み込んだ。



「ぐぁあああああ!!」



身体が変若水に拒否反応を起こしている。だが少し経つと・・・沖田の茶色い髪の毛は白く染まり、翡翠色の瞳は赤くなった。



「これが、羅刹・・・」



力が湧いて溢れ出てくる。そうだ、あの感じに似ているんだ。名前ちゃんから貰った糸をつけた時みたいな。力が自分の中で渦巻くのが分かる。



「ふはははははははっ、自ら紛い物と成るか。だがそれも一興。せいぜい楽しませてもらおうではないか」



風間は沖田へと刀を向け直した。その瞬間、沖田は地面を思い切り蹴り風間との間を一気に詰める。キンッ―――刀同士が激しくぶつかり合う音が鳴り響く。そして沖田は刀を風間へ浴びかける。その内の一太刀が、風間の顔をかすかに掠った。



「よくも、よくもこの俺に傷を負わせたな…!」

「へぇ、いい感じになったじゃない」



さらに二人が刀を交えようとした。その時。



『待った、です』



カキィィィィン…二人の太刀筋を片手ずつで受け止めたのは名前であった。



「名前ちゃん…」

「貴様…」



驚きと困惑の表情を浮かべる沖田。いつの間にか羅刹ではなくいつもの姿に戻っていた。面白そうな玩具でも見つけたかのような表情の風間。そして何を考えているのか分からない表情の名前。その三人が対峙していた。



『貴方の敵は俺のはずですが?沖田さんに手を出さないでください』

「ほぅ、もはや戦闘できる状態にまで戻るとは。伊達に鬼の血が流れているわけではなさそうだな」

『うるさい!』



シュッと名前の放った一太刀は風間に避けられる。だがすぐにもう片方で斬りかかった。何でもいいから時間を稼ぎたい。もうすぐ土方さんたちが帰ってくるはずだ。そうすればこの風間にも対抗できる。今いる俺と沖田さんだけでは無理だ。



『・・・っと』



そんなことを考えている間に一太刀が浴びせられる。ぎりぎりのところで避ければ服の裾部分が破ける。



「名前ちゃん、僕もまだ戦えるよ」



沖田も参戦し、名前と沖田対風間。だけど、名前の予想通りぎりぎりの戦いだった。



「―――てめぇら何してやがる!?」



何とか沖田と一緒に戦っていた名前。待っていた土方たちがやってきた。だが、その一瞬だけ土方さんの怒鳴り声に意識が向いてしまい気付いたときには風間の姿はなかった。



「おい名前、大丈夫か?」

『原田さん・・・』



力が入らなくなって膝をついていた所を原田さんに立たされる。



「どういうことか説明しやがれ!」



屯所に入られた挙句の果てには戦闘。対応したのが平隊士だったら何人が犠牲になったことか。沖田と名前は土方の部屋へと直行。それに伴い、騒ぎと聞きつけた幹部たちも話を聞くこととなった。

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