力の代償 (136ページ)
名前は最近目に見えて弱ってきた。今までなら誰が止めても働こうとしていたのに寝込むことが多くなった。いつもなら朝早くから活動しているのだが布団から出る時間が明らかに少なくなっていた。だが無茶をしてでも働き続けていた。皆に咳をしているところを見られないよう注意しながら。働かなければ怖かったのだ。いらない、と言われるのを怖がった。この人たちは大丈夫だと信じる一方で恐れていたのだった。
その日は朝から名前は働いていた。体調はあまりよくないにも関わらず咳き込みはしなかったのだ。
『ふぅ・・・』
掃き掃除を一通りし終え溜息を吐く。休憩を挟まなければやはりつらいのだ。
「お前はまた雑用をしているのか」
『・・・どなたですか?』
そう名前が尋ねると風間はククッと面白そうに笑い、風間千景だと名乗る。知りもしない人物が屯所内部に入り込んできた。警戒を露にし、名前は刀を右手で抜いた。
「ほぅ、そのような状態で俺とやりあうつもりなのか?」
『貴方に何が分かるというのです』
名前を見ながら、まるでつまらないとでも言うような声色で言い放った。
「お前は労咳にかかり、記憶を失くしたのだろう?」
『っ、どうして、それを』
新選組、しかも限られた人物のみしか知らない事実である。それを簡単に外部の者に見破られたのだ。名前も動揺してしまった。
『貴方は、敵、ですか?』
やっとの思いで搾り出した言葉。敵なのか見方なのか。今の名前に敵か見方かの区別を付けることはできない。主人の言うがままに敵とみなして殺してきたのだから。
「・・・ふん、今のお前では意味がないな。名前、こっちへ来い」
警戒しつつも少しずつ風間との距離を縮めていく。一歩、また一歩と刀を抜きながら近づく。後少しで刀が届く範囲となる所へ入った瞬間に風間は名前の腕を掴み、自らに近づけた。軽く悲鳴を上げたが、そんな名前を気にすることなく風間は彼女の顎を掴んだ。
「今のままでは面白くない。全く、新選組のやつらは何をしているのだ」
風間は力を入れて抵抗した名前の腕をしっかりと抱きこんでいた。
「大人しくしろ。痛くされたくなければ、な」
名前の頭をおもむろに掴んだ。そして風間の手が光を放ち―――
『はなっ・・・あぁぁぁあああ!!』
情報が入ってくる。自分の知りえない情報が。頭が痛い。おかしくなりそう。無理矢理記憶を入れられて頭が割れるように痛い。俺は頭に走る激痛により気を失った。