力の代償 (135ページ)
夕方、千鶴は洗濯物を取り込んでいた。
『千鶴さん、手伝います』
「えっ、あ、うん。ありがとう」
そこにやってきたのは名前。彼女は寝ていろと言われても何かと言って働いていた。千鶴は名前が記憶を失くしてから距離を取っていた。どう対応すればよいのか分からなかったのだ。その為、必然的に名前は沖田と一緒にいることが多くなった。名前とよくいたのは千鶴か沖田の二択だったから。
「・・・あ」
千鶴の背丈よりも高いところに引っかかっている洗濯物を見つけた。手を伸ばしても届かない。
「名前、あれ取れる?」
『分かりました』
あと少し、あと少しなのだけれど届かない。精一杯背伸びしている名前の身体が震えていて、顔が赤くなっていて可愛らしい。だが表情は―――相変わらずの無表情だ。
『・・・とれました』
「え、あっありがとう」
『それくらい何なりとお申し付けください。・・・申し訳ございません。部屋に戻ります』
体調が悪くなった。一緒にいては咳き込むところを見られてしまう。駄目だ。体調の悪いところを見せたら処分されてしまう。咄嗟に自室へ逃げた名前はすぐに咳き込んだ。ピチャッと口を押さえた手に血が付着する。名前は自分の吐いた血を見ながら弱ったことを静かに嘆いていた。