池田屋事件 (11ページ)
「いただきっ!!」
「あーっ、ずっりぃぞ、しんぱっつあん!!」
「・・・悪いな、いつもこんな煩くて」
「いえ、楽しいです」
原田は騒ぐ平助と永倉を横目で見ながら千鶴を気遣う。騒がしいことに慣れていない千鶴は驚いたものの、楽しいと思い始めていた。家ではいつも静かだったから。父も名前も話すことは少ない。自然と家の中は静かになっていたのだ。最近は部屋で一人で食事をとっていたこともあり、余計に嬉しかった。千鶴は自然に口元が上がった。
「やっと笑ったな、最初からそうやって笑ってろ。名前も笑えよ?」
『はぁ・・・』
私は新撰組の皆を誤解していたのかもしれない。少なくとも悪いだけの人たちではない。優しさを持っている人だっている。そう千鶴は思うようになってきていた。
「名前、隙ありっ」
『どうぞ』
「へっ!?」
いつもの永倉とのおかずの争奪戦。名前に目をつけた平助は魚を取ろうとしたが、まさかの返答に驚いた。
「い、いいのか?」
『俺はもう充分食べましたので。どうぞ』
「じゃあ・・・」
名前の様子を見ながら、おそるおそる手を伸ばし魚を掴んだ。
「ずっりぃぞ平助!」
賑やかな食事が終わった。騒いでいたのは平助と永倉だけだが。部屋へ戻る途中、
『・・・・・・山南さん』
「なんですか?名前君」
『左腕。気をつけてください。いやな気がします』
「・・・?左腕ですか?何か怪我をしているわけではないのですが・・・ありがとうございます。君がそう言うのなら気を付けましょう」
その会話を聞いていた沖田が廊下で名前に問いかける。
「山南さんの左腕がどうかしたの?」
『何か嫌な予感がしたんです』
「へぇ、そう」
その時は深く考えなかった。まさか本当に山南さんの左腕に悪いことが起こるなんて思ってもみなかったから。