力の代償 (134ページ)
「名前ちゃん、入るよ?」
返事も聞かずに沖田は部屋の中へと入る。それはいつものことだった。
『沖田さん。巡察お疲れ様でした』
「あれ?左之さんに聞いたの?」
『はい』
楽しく(?)会話していたのだが沖田の目に塵が映った。
「これは?」
『原田さんが蜜柑を買ってきてくださりまして。それを頂きました』
「ふーん」
やっぱり左之さんを野放しにしてたら危ないね。気をつけなきゃ。そんなことを沖田が思っていたところ、近藤が名前の部屋を訪ねてきた。
「おお、総司もいたのか」
「ええ。やはり心配ですしね」
さっきまでの怖い笑った顔はどこ吹く風で満面の笑みで近藤と話し合う。二人して笑い合いながら話していたのだが、名前の放った言葉によって固まった。
『・・・近藤さん。いつまでこのような欠陥品を置いておくつもりなのですか?俺の代わりなら千鶴さんがいますよね。いや、代わりどころかお釣りが出るくらいのはずです。どうしてここの人たちはそれを許して、俺に優しく接してくださるのですか』
「な、何を言うか!名前君は名前君だ!!それに病気になったからと言って追い出すわけないだろう!?」
名前は少しだけ眉をひそめ、理解できないと言った顔をした。そんな名前に沖田は平手打ちした。・・・とてもいい音を鳴らして。
「なっ」
「何、言ってるのさ名前ちゃん」
寂しかった。悲しかった。自分のことを欠陥品だという名前を見て。僕のせいだ、僕のせいで彼女は労咳になったんだ。僕のせいでこんなことを言うようになってしまった。
「欠陥品なんかじゃないよ。君は病気を負いながらも働いている。それに君の代わりなんているわけないじゃない。近藤さんも言ったように名前ちゃんは名前ちゃんなんだから。次言ったら本気で怒るからね」
笑顔で、だけど目だけは泣きそうな顔で。名前は沖田のその顔が頭にここびりついてしまって離れなかった。