力の代償  (133ページ)


『ごほげほっ』

「おいおい大丈夫か?名前」

『大丈夫、です。申し訳ありません原田さん」



咳き込む声を聞き、原田が名前の部屋の中へと入ってきた。巡察の帰りに蜜柑を買ってきており、それを渡すためでもあった。



『ありがとうございます』



蜜柑をもらったのはいいが、食べ方が分からない。どうすれば良いのだろうと蜜柑をじろじろ見ていると原田の手の中へと蜜柑は収まった。



「食べたことないのか?剥いてやるよ」

『ごめんなさい』

「何も謝ることじゃねーって。名前が悪いわけじゃないしな」



少しずつ蜜柑の皮が剥かれていき、おいしそうな実が出てくる。



「ちと酸っぱいかもしれねぇけどな。ほら」



ぱく、と一粒食べてみた名前。もぐもぐと口が動いている。



「どうだ?」

『・・・えっと、酸っぱいです?』



酸っぱいという感覚は彼女の中から消えていた。それだけでなく味覚という感覚が消え去っていたのだ。だから名前は原田の言った酸っぱいという感想しか言えなかった。



「そうか」



原田は寂しそうに笑った後、また一粒と名前の口の中へ放り込んだ。



「風邪にも効くんだ。・・・お前のは風邪じゃねぇが少しくらい喉が楽になればと思ってな。・・・っと、そろそろ総司が巡察から帰ってるから俺は退散とするか」

『ありがとうございました』



いいんだよ、と笑って原田は名前の頭を撫でようと腕を挙げた。その瞬間。



『ひっ』



小さな悲鳴が上がる。それは彼女が発したものだった。名前は腕を上げ、頭を庇う体勢に入っていたのだ。無意識のうちに。



「名前・・・」

『っ、あ、ご、ごめんなさいっ』



半ば追い出されるような形で原田は名前の部屋を後にした。



「あれ、どうして左之さんが名前ちゃんの部屋から出てくるのさ」

「見舞いに行ってただけだよ。今日は具合が悪そうだったからな。それより総司」

「何?」

「名前、怯えてたぞ。俺が手を上げた途端に、だ」

「・・・どういうこと?」


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