力の代償 (132ページ)
『土方さん、失礼します』
そう言って拷問室へと入ってきたのは名前。なぜだか永倉に頼んだはずの蝋燭や鞭をもってやがる。
「お前、寝てなくて問題ねぇのか」
『あまり寝すぎていても体に毒です。それに寝ているからといって善くなる訳ではありません』
拷問している姿に何の反応も無くいつも通りな名前。こいつ、慣れてやがる・・・血にも。傷にも。拷問にも。
『俺が代わりましょうか?土方さん、最近寝てないですよね』
確かに書類仕事が多く、最近全然休めていなかった。本来ならこの仕事は俺の仕事じゃなかった。だが他の奴では吐かなかった。今現状、俺の拷問にも耐えるようなやつだ。こいつに託してみるか?
「分かった。山崎を呼んでおく。無茶はするなよ」
『部屋の前で待っていてもらってください。誰も入らないように』
手渡された蝋燭、鞭を名前の手に戻し俺は拷問室を出た。山崎を呼んで。
そして一刻も経たない内に名前がやってきた。俺は、無理だったと思ったが、出てきた言葉は以外すぎるものだった。
『全て吐きましたよ』
名前が手に入れた情報は浪士の拠点や次の策略などで重要なことだった。
「どうやって吐かせた?」
俺たちがあれだけしても吐かなかったのだ。そう簡単に吐くとは思えない。次のために聞いておくべきだと思った。
『飴と鞭』
「飴と鞭?」
『そうで、げっほげっほ』
名前は激しく咳き込み座り込む。俺は筆を止め、名前の方へ駆け寄り背を擦る。しばらくすると咳は止まったが、浅く息を繰り返していた。
「もう寝ろ。部屋まで送るから」
元はといえば体調が善くないことを知っていながら頼んだ俺が悪いのにこいつは俺を責めるどころか謝罪を述べる。
部屋に入り座らせ、綺麗にたたまれてあった布団を敷いてやる。
『すみません』
「いいからさっさと寝ろ」
布団の中に入ると安心したのかすぐに寝息を立て始めた。改めてみるとこいつ、綺麗な顔してるな。頬に触れようと伸ばした手を止める。奴の気配に気付いたからだ。
「さっさと入ってきたらどうだ総司」
「なら早く名前ちゃんから離れてください」
スッと襖を開けて入ってきた総司。俺の伸ばしかけていた腕を払いのけ名前へと手を伸ばす。そして愛らしそうに名前の顔を擦る。まるで壊れ物を扱うかのように。
「俺が言うもんじゃねぇだろうが、気をつけろよ」
「・・・分かってますよ、それくらい」
名前の労咳が進行してしまっていることを身に持って体感した日だった。