力の代償 (130ページ)
雨が降ってきた。名前と沖田は松本先生を訊ねた帰りであり、走って帰ることも不可能だった。
「はぁ、どうする?名前ちゃん。この距離じゃ屯所まで走るなんて無謀だし」
『俺は別に問題ありませ…!!』
名前が答えきる前に稲妻が走った。続いてどーんと地鳴りみたいな音がする。俺の苦手な雷だ。雨に濡れるだけだったらなんとも思わないが雷雨となると話は変わる。そんな雷に反応した名前を沖田が見逃すはずがない。
「あ、あそこで雨宿りしよっか」
丁度古いが家があったのでそこで雨宿りをすることに。
「大分濡れちゃったね」
『はい』
服が肌にへばりつきかなり気持ち悪い状態だった。
「ね、名前ちゃん。風邪引かないように提案があるんだけど」
『提案ですか?』
「そ。名前ちゃん服脱いで?裸で暖めあえば言いって聞いたことがあるんだ」
『・・・そうですか、分かりました』
所詮は同じ男。やはり皆同じか、と名前は思いながら服を脱いだ。沖田は名前に背を向けながら訊ねる。
「名前ちゃん、脱げた?」
はい、と振り向こうとした身体を元の方向へと戻される。
「・・・こっち見ないで。僕がいろいろまずいから」
沖田は理性を総動員させながら腕を名前の方へと伸ばした。
『え?』
行為をすると思っていた名前は思わず声をあげる。まさか後ろから抱擁されるだけなど思ってもみなかったのだ。
「名前ちゃん何その声。もしかして期待してた?」
沖田はその声を見逃さずに、名前をからかい始める。
『違います。ただ脱げって言われて行為をされないのは初めてなだけです』
「・・・そっか」
沖田から邪気らしきものを感じ取り、名前はすぐさま口を閉ざした。沖田も沖田で何も話さず、雨の音と雷の音だけが鳴り響いている。
「名前ちゃん。名前ちゃんは・・・」
『何でしょうか?』
「雷がどうして怖いの?君の苦手なものを始めて僕は知ったんだけど」
しばらくの沈黙の後、小さな声で答える。
『俺は、俺自身は、怖いっていうことはありません』
「俺自身?」
『はい。主人の中には雷が怖いという人がいました。そしてその人は俺たち奴隷を痛めつけ、悲鳴によって雷を消そうとしたのです。ですから雷が鳴るとどこかへ隠れないと、と場所を探します』
っ、余計なことを思い出させちゃったな。ごめんね名前ちゃん。と思いながら沖田は一つの疑問をぶつける。
「今は?今は隠れなくてもいいの?」
『逃げたほうが怖そうですから』
それが余りにも痛々しい声色で。沖田は気付かない内に腕に力を入れていた。僕は大丈夫だよ、そんなことしないからとまるで安心させるように。