力の代償 (127ページ)
名前は猫が好きそうな屋根の上で探していた。先ほどまでは沖田と斎藤と一緒にいたのだが、言い争いを始めたため巻き込まれないよう逃げたのだ。
『ねこー?』
「にゃー」
『あ』
隣の屋根に探しの猫がいた。猫は名前の姿を見ると飛びついてきた。
『よしよし』
にゃあと可愛い鳴き声を上げながら名前の胸元へ。名前は猫を抱いたまま屋根から飛び降りた。
『見つけました』
「随分、名前に懐いているのだな。総司、二人で猫を逃して来い。俺は副長に報告してくる」
「もう解決したしいいと思うけど・・・まぁいいや。分かった。名前ちゃん行くよ」
屯所の外で名前はなにやら目的があるかのように動き始める。
『飼い主に届けようかと思います。この子についている匂いを辿れば問題ありませんし』
「・・・分かった。名前ちゃんに任せるよ」
匂いって動物じゃないんだから、と口には出さずに心の中で思う。未だに名前の胸元にいる猫。着物の合わせ目からぺろぺろ白い肌を舐めている。そんな猫を羨まし気な瞳で沖田は睨みつけていた。
「きょろきょろしないの。変な人になっちゃうでしょ」
『はい。すみません』
そうは言っても仕方ない。記憶の無い名前にとって初めての”外”なのだから。
「その猫返してからどこか寄ろう」
二人でいたかった沖田にとっても嬉しいことだった。
匂いを追ってついた先は木造平屋の家だった。呼んでみると人のよさそうなお婆さんが出てきた。
「ありがとねぇ。お礼にこれ持って行っておくれ」
「町に行くのはまた今度だね」
二人は手一杯の野菜を持ちながら屯所へ帰って行った。