力の代償 (125ページ)
僕の心配は杞憂で終わってくれという願いとは反対に神様はなんて酷いのだろう。
『・・・どなた、ですか?』
名前ちゃんの瞳が僕を見た瞬間、とんでもない一言を放った。
「僕が、分からないの?」
『申し訳ありません。ご主人様ですか?』
出会ったときよりももっと無表情な、感情のない顔で言う。
「僕は沖田総司。君は僕の小姓だよ」
そう言ってみたけれど何の反応もない。思い出せないようだった。
「千鶴ちゃんは?千鶴ちゃんのことは覚えてる?」
『ち、づる・・・?』
「ちょっとそこで待ってて」
何か思い出してくれるはずと期待をかけながら千鶴ちゃんを呼んだ。
「名前?」
『はい、何でしょうか?』
だけど駄目だった。僕と同じ冷たい眼で千鶴ちゃんを名前ちゃんは見つめる。
「千鶴ちゃん」
「一緒です。昔、名前を拾った時と同じ眼をしています・・・」
だとしたら僕達と千鶴ちゃんと出会ったときからの記憶がないことになる。あの悲しい記憶だけを持って、全てを敵と認識しているということなのだろう。
「僕達、もう一度自己紹介しておくほうがいいよね」
「そうですね・・・」
千鶴はかなり落ち込み、下を向きながら答えた。後に幹部が集められ、中央に名前という位置で座っていた。
「さてと。名前ちゃんも休まないといけないだろうし簡潔に言うよ。名前ちゃんは僕達と出会ってからの記憶がない」
皆驚いた顔をした。それもそうだろう。いきなり記憶喪失だなんて言われて信じろという方がどうかしている。
「なら自己紹介が必要だな」
土方は冷静に対処し、皆々が自己紹介を始めた。
『よろしくお願いいたします。私の主人は沖田さんということでよろしいのでしょうか?』
「まぁ、そんな感じだな」
本来は千鶴なのだが千鶴のことも全て忘れてしまっているため、完結に沖田が主人ということに。沖田は労咳のことも全て話し、名前が労咳にかかっているということが知れ渡った。
「ということは名前は今労咳にかかっているのだな?」
「うん、多分ね。どう?名前ちゃん」
『確かに体になんらかの異常をきたしています。力でねじ伏せていますが後には効かなくなるかと』
「そんな・・・」
元々名前にあった労咳、それから沖田から受けた労咳。今は普段どおりのようだがいつ症状が現れてもおかしくない状態だった。むしろ今までが異常だったのだ。咳だけで済むなど鬼の力が無くてはありえないことであったのだ。