力の代償 (124ページ)
「ふわぁぁあ」
朝、目が覚めた沖田は体の軽さに驚いた。昨夜、名前ちゃんが来て労咳を治してくれる夢を見たんだ。なんて都合のいい夢だろうね。今日は調子がいいから名前ちゃんと遊ぼうかな。
「名前ちゃん入るよ?」
まだ眠っているらしい彼女。珍しく布団を敷いて転んで眠っている。僕に寝顔を見せるなんて珍しいなと思う。気配に敏感だから。彼女は。僕や一君もだけど。
「名前ちゃん、ちゃんと布団被らないと駄目だよ」
そう言って布団をかけなおそうとしていた所で手が止まる。名前ちゃんが咳こんだのだ。しかも僕がよく知っているあの悪魔の咳を。
「名前ちゃん?」
そして僕は怖い結論へと辿り着いた。―――名前ちゃんは労咳にかかっている。僕の労咳が移ったのか、もしかしたら本当に僕の労咳を治してくれていて影響なのかは分からない。だけど労咳にかかっているのは確かだ。僕のせいだ。僕のせいで彼女は・・・
寝返りを打ったのを見計らって僕は部屋を出た。彼女が起きて普段通りに接する自身がなかったから。土方さんのところに言って駄目元でも聞いてみようかな、真相を。
そして、大して期待していなかった土方さんから衝撃の言葉が述べられた。”名前の他人への治癒力は自分に移してその人の怪我や病気を治している”ということを。ならば彼女が労咳にかかっているのは当然だろう。移したんじゃない、彼女は僕の労咳を自分で引き受けたんだ。
「総司、お前何も聞いてねえのか?」
「・・・はい」
土方さんは軽くチッと舌打ちした後すべてを話してくれた。
「・・・そんな」
ならば一時的に治ったと思っていたときも彼女が自ら死病を負ってまで治してくれたことになる。そして再発した今回も同様・・・名前ちゃんは僕に話すと拒否すると思って黙ってしたのだろう。だって全てを聞いていたら僕は嫌がったはずだから。
「総司、お前変なところとかねえか?」
「えぇ。悔しいくらい万全です」
「そう、か。成功したみたいだな」
自分の力が足りないかもしれない。なるべく気をつけるけれど沖田さんになんらかの影響が出る可能性がある。と彼女は言ったらしい。ならば彼女の方に影響が出ているのでは。
「ちょっと名前ちゃんを見に行ってきます」
心配だった。ただでさえ労咳なんて死病を負い、他に症状があれば死に直結する。抗えない死へのまっすぐな一本道だ。名前ちゃんは大丈夫だと信じながら僕は土方さんの部屋を後にした。