力の代償 (122ページ)
慶応三年十二月、千姫と君菊が屯所を訪れていた。
「単刀直入に聞きます。彼らは失敗作なのにいつまで使うつもりですか?」
「失敗かどうかは俺達が決めることだ。部外者に言われる筋合いはねぇよ」
「では羅刹の方々が見回りとして辻斬りをしているのをご存知ですか」
山南だ。皆、気付いていた。いや気付いていないふりをしていたのだ。仲間だった者が辻斬りなど信じたくなかった。
「千鶴ちゃん。ここをでて私達と一緒に来ない?」
「もうじき京は戦場になります」
「あの時とは状況が違うわ」
千姫の言葉に君菊が付け足す。そう、ここは戦場になるのだ。危険だらけであるこの場所に留まる必要はあるのか。
「私は・・・」
「出て生きたきゃーねんだろ。だったらここにいたらいい」
皆が黙って見守っている中、土方が声を出した。そして千鶴はまだ新選組にいることに。もちろん名前も同様に。
それが千鶴の意思だと分かると千姫はあっさりと下がる。風間とは違い、彼女の意思を第一に考えてくれているのだ。そして帰り際、せっかく来てくれた彼女を見送ることとなった千鶴と名前は話していた。
「ねぇ、もしかして千鶴ちゃんの思い人って」
「いや、えっと、今は新選組の皆さんの側にいて何か力になればいいかなって」
千鶴は一生懸命ごまかそうとするが千姫にはお見通しみたいであった。
「名前ちゃんも頑張ってね」
『俺も、ですか?』
「えぇ。まだ無自覚なのかしら?」
周りから見れば一目瞭然だった。明らかに沖田は名前に好意を寄せており、それは名前にも言えることだった。
「恋の前には全て無力なものよね。じゃあね千鶴ちゃん、名前ちゃん。またいつかどこかで会いましょうね」
「ありがとうお千ちゃん」
『ありがとうございました』
一瞬で千姫と君菊は消えて行った。
「戻ろっか」
外は冷える。少し外に出ていただけなのに手が冷たくなっていた。
守るものがあればこそ強くなれる。その代わりに弱くもなるのだが。新選組は少女を一人守るために弱くなどならない。そう名前は確信していた。