力の代償 (121ページ)
・・・治らない。労咳が、力をいれても治ってくれないのだ。自分の労咳さえ治せないのに沖田の労咳は治せない。沖田の症状は日に日に悪化の一途をたどっていた。
『沖田さん、具合はどうですか?』
沖田が眠っているだけの日も多くなっていた。
「ぅん、咳のし過ぎで喉がちょっと痛いかな」
『一応お粥を作ってきたのですけど』
「名前ちゃんが作ったの?こほっ」
『はい、近藤さんが葱を切ってくださいました』
「え・・・」
沖田さんが固まった。どうしてだ?いつもなら近藤さんの話が出ただけで喜ぶのに。
『どうかしましたか?』
「ううん、なんでもないよ」
変だなとは思ったけれど名前は気にせず食事の用意をした。
『食べられますか?』
「んー、無理。食べさせて?」
『分かりました』
嘘だ。名前にも嘘だということが分かった。だけど気付かなかったふりをした。自らの力の無さから目を背けるように。
『口開けてください』
「あーん」
ぱくと少量ながらもお粥を食べ進めていく。途中何度か咽たが、何とか食べきった。
「・・・ふぅ。あのさ」
『はい何でしょう?』
「おいしかったけど次から葱は入れないでね。僕、あれ嫌いだから」
『分かりました』
近藤が切ったからという理由で葱まできちんと食べたのだろうと理解した名前。本当に沖田さんの近藤さん好きには感心させられる。俺も千鶴に対して同じようなものなのかもしれないけれど。
『片してきますね』
「待って」
食器を片そうとした名前を沖田は呼び止めた。何だろうと沖田のほうを見ると、布団へ入り転がるところだった。
『何でしょう?』
「僕が寝るまででいいからここにいて?一人だとつまんないんだ」
『いいですよ』
ぎゅ、と手を握り合って沖田は眠りについた。名前は沖田が深く眠りについたのを確認し、部屋を出ようとしたのだが手が握られており・・・仕方なく名前は沖田の手が緩むのを待ったのだが、解放されたのは一刻半程過ぎた頃だった。
沖田はまだ彼女が自分と同じ病気を患っていることを知らない。