力の代償 (119ページ)
「名前、火傷はもう大丈夫なのか?」
『原田さん。大丈夫ですよ』
あれから三日。ほとんどの火傷の痕は残っていない。だけど完治したわけではない。治りが遅くなっているのは明確だった。
「それにしてもよ、何してんだ?」
『月を、月を見てました』
月?と思い原田は顔を夜空へと上げた。夜空では三日月が綺麗に輝いていた。
「綺麗、だな」
『はい。俺は月が好きなんです』
暗い闇の中で輝きを放つ月―――そんな月が名前は好きだった。また形を変えてゆくところも名前にとっては興味深かった。
『・・・俺は変われてるのかな』
「変わってるよ」
原田は名前の頭をくしゃくしゃと撫でながら答えた。
「表情が豊かになった。味が分かるようになって料理もできるようになっただろ?」
『ありがとうございます』
名前は少し照れながらも答えた。珍しいものを見たものだと原田はさらに名前の頭を撫でる。
『もー、やめてくださいよ』
「いいじゃねぇか。綺麗な髪なんだしよ」
『そんなことは・・・こほけほっ』
「おいおい、冷めたんじゃねーか?早く部屋に戻ったらどうだ?」
名前は原田に促され大人しく部屋へと戻った。ばれなかったかな、と少し不安に思いながら。